INTERVIEW

桑原あいインタヴュー 『To The End Of This World』 音の声を聞く 音楽の進む方へ

©Becky Siegel

音の声を聞く 音楽の進む方へ

 ラッパーやシンガー、更にはストリングスまで入っていることに少なからず驚いたが、おそらくこのアルバムはその表面的な変化とは別のところに本質がある。

「アルバムを作ろうと思ったときに、もともとあった曲を並べてみたら、全曲にリンクしている部分があるなと思って、それが何かを考えていたら『To The End Of The World』って言葉が浮かびました」

 と語るとおり、このアルバムには編成は多様だが、どこか統一感がある。

桑原あいザ・プロジェクト To The End Of This World ユニバーサル(2018)

 「作ろうっていうよりは胸にあったものをすっと下した感じでナチュラルに作っていったんです」との言葉がしっくりくるような自然な繋がりがそれぞれの曲にはある。その中で重要なキーワードは“母”と“海”だろう。“世界の終わり”をテーマにした時に彼女は生命を生み出した母なる海を思い浮かべ、全てを生み出す立場だからこその孤独を海の情景に重ねた。その中でキーとなる曲は、寺山修司の詩に曲をつけた《悲しくなったときは》ではないだろうか。ここでは歌詞を英訳し、ものんくるの吉田沙良が歌っている。

 「高校生の時に、寺山修司の“なみだは人間の作るいちばん小さな海です”って詩を読んで、感動して。そしたら母も好きだったみたいで家に詩集があったんです。そこから読み始めたら、寺山の詩ってほぼひらがなで、小学生でもわかるような言葉を使って、こんなに言葉をキラキラさせられるのかって思って、一気に寺山の世界に引き込まれていったんです」

 “悲しくなったときは 海を見にゆく”、“ああ 海よ 大きな肩とひろい胸よ おまえはもっと悲しい おまえの悲しみにわたしの生活は 洗われる”、“人生はいつか終るが 海だけは終らないのだ”と綴られるこの詩は桑原あいがこのアルバムで表現したいことが凝縮されているように思える。

 「私は“海ぜんぶ飲んだら、なにくれる?”って詩も好きなんですけど、寺山修司も私と同じで海が好きみたいで海に関する詩が多いんです。彼が海に対して書く詩は他の詩とは違う気がしますね」

 寺山が描く海の強さや孤独、大きさ、それはDaichi Yamamotoのラップが加わった《MAMA》とどこか通じている。

 「リリックにはダイチくんが考える母への愛情のことを書いてってお願いしたんです。彼のお母さんはジャマイカ人なんですけど、その母の生い立ちをリリックにしてくれていて。母が日本に来て、そこで受けた差別のことから、自分が生まれるところまでが書かれているんですけど、それを見ていろんな形の母への愛情があるんだなと思ったし、同時に彼の世界観と自分の世界観が融合した気がしました」

 ここで桑原あいは音だけではなくて、思いや情感を言葉と共に音楽で表そうとしている。それは彼女の中にあったという“言葉への憧れ”と“言葉と友達みたいに付き合いながら、並べていける歌手というものへの憧れ”を反映したものなのだろう。それと同時にここではその言葉に見合う音を紡ぎ出そうともしている。

 「《Maria》はコントラバスとデュオでやりたいってずっと思っていました。この曲はマリアって女性に対しての愛の歌なので、それを音で表現できる人と出会うまでやらないでおこうって温めていたんです。去年、鳥越さんとライヴをした時に『あ、この人だ』って思ったんです」

 彼女は音と言葉で自身が考える情感をひとつひとつ的確に表現している曲を並べて一枚のアルバムを作り上げた。「自分が弾きたい気持ちよりは音楽が進む方向に音楽を持って行きたい」という言葉は演奏家としてだけでなく、音楽家、もしくはアーティストとして、少し大きな表現を模索していることの表れなのかも知れない。

 最後に《919》という曲について尋ねると、「3年前の9月19日に安全保障関連法が可決したことを表しています」と語ってくれた。「ベースがE♭で、私のピアノのメロディはE。半音でずっとぶつかっているんですよね」という表現によるこの曲からもまた“世界の終わり”が聴こえてくる。

 


桑原あい (Ai Kuwabara)
1991年生まれ。洗足学園高等学校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業。2012年1stアルバム『from here to there』でewe recordsからデビュー。第12回東京JAZZフェスティバルなどの出演や、2014年モントルー・ジャズ・ソロ・ピアノ・コンペティション・イン・かわさきでの優勝など受賞も多数。2017年Steve Gadd、Will Leeをメンバーに迎え5枚目となるオリジナルアルバムをリリース。同トリオで2017年国内リリースツアーを行う。テレビ番組やゲームソフトの音楽担当するなど活動は多岐にわたる。

 


LIVE INFORMATION

Ai Kuwabara the Project 「To The End Of This World」Release Tour
○11/4(日)15:30開場/16:00開演 福岡・Gate's 7
○11/5(月)18:30開場/19:00開演 大阪・梅田クラブクアトロ
○11/6(火)18:30開場/19:00開演 愛知・名古屋クラブクアトロ
○11/7(水)18:30開場/19:00開演 東京・浜離宮朝日ホール

aikuwabara.com/