©Trevor Paulhus

霧の中にともる灯りのように――静寂のサウンドスケープ

 テキサス州ダラスに生まれたシンガー・ソングライター、コナー・ヤングブラッド。10代の頃から音楽活動を始めたコナーは、自主制作した音源が注目を集めて様々なレーベルからの誘いを受けながらも、そこで音楽の道に進まずにイエール大学に進学した。学ぶことを選んだ背景には、祖父がブリストン大学に黒人であることを理由に入学を拒まれ、父親はブリストン大学に入学して人種差別の抗議運動に加わったという家族の歴史が関係していたようだ。コナーは大学でアメリカについて研究し、ザ・バンドについて論文を書いた。そして、2016年にデビューEP『The Generation Of Lift』を発表して本格的に音楽活動をスタートさせたコナーは、ジャネール・モネイのサポートをはじめ様々なミュージシャンと共演。そして満を持して、ファースト・アルバム『Cheyenne』をセルフ・プロデュースで作り上げた。

CONNER YOUNGBLOOD Cheyenne BEAT(2018)

 このアルバムには、コナーが2年間に渡って世界中を旅した際に、そこで見た風景や出会った人々の想い出が綴られているらしい。ジャケットやライナーに使用された写真はすべて旅先で撮られたもの。旅はコナーの創作意欲を刺激するようだが、“The Birds Of Finland”は行ったことがないフィンランドを想像して書いた曲だとか。またレコーディング中には、スタジオで常に映画を音声を消して流していたらしく、そういった環境がアルバムにロードムービー的な雰囲気を与えることになった。

 ザ・バンドやボブ・ディランから大きな影響を受けたコナーの歌には、アメリカーナな匂いが漂っているが、ギター、ストリングス、クラリネット、ハープなど様々な楽器を使用して幾重にも音を重ねたシンフォニックな音作りや叙情豊かな音楽性は、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンやシガー・ロスあたりに通じるところもある。そして、そんな奥行きを持ったサウンドのなか、コナーの柔らかな歌声は霧の中に灯った灯りのように静かに佇んでいる。

 コナーの歌を聴いていて感じるのは、目の前に広がる圧倒的な自然に自分が同化していくような開放感だ。アルバムのリリースに先立って公開された“The Birds Of Finland”のミュージック・ビデオでは、ビデオ撮影のために初めて訪れたフィンランドの雄大な雪風景のなかを、コナーが一人でさまよう。雪に包まれた森、波打つ海岸、ハイウェイを走る鹿……そんな大自然が奏でるシンフォニーのように、雄大で繊細な音楽がコナーを包み込む。コナーの歌を聴くこと、それはコナーが生み出した音の風景を旅することなのかもしれない。