多言語でのレア音源も! ラテン音楽との相性も垣間見える60年代半ばを網羅

 2017年8月にリリースされたアナログ盤LP『KENNY RANKIN COLUMBIA US SINGLES 1963-1966』を、すでに持っている人たちこそ素通りできないCDだろう。このほどリリースされたケニー・ランキンの『コンプリート・コロンビア・シングルズ1963-1966』のジャケット写真は、前述のアナログLP盤と同じだが、10曲も多い全20曲入り。アナログ盤LP収録曲(63年から66年までの米コロンビア在籍時にリリースされた5枚の米国盤シングル)に、ドイツ、フランス、イタリアといった欧州各国のシングルやEP収録音源が追加された、まさに“コンプリート”の名にふさわしいコンピレーションだ。しかも未発表音源が2曲含まれている。64年6月8日に録音された《U.S.メール》のスペイン語ヴァージョンと、翌日に録音された《ホエア・ディド・マイ・リトル・ガール・ゴー》のドイツ語ヴァージョンだ。また、64年にフランスでリリースされたEP『Chante En Francais』からの4曲はすべて仏語で歌われており、そのうちの2曲は米国盤とは別録音。このように英語以外の言語によるレア音源が含まれている点が、本作の最大の特色であり、なおかつ魅力といえる。

KENNY RANKIN The Complete Columbia Singles 1963-1966: Kenny Rankin Columbia/ソニー(2018)

 ケニー・ランキンは、1940年にニューヨークのワシントン・ハイツで生まれた。ここは、ドミニカやプエルトリコなど多くのヒスパニック系住民が暮らしている地域だ。それだけに、ケニーは幼い頃からスペイン語やラテン音楽に触れて育った。そして彼は、60年代初期にジョアン・ジルベルトに衝撃を受けて、独学でギターをマスターした。ジョアンからの影響に基づくケニー独自のギターの弾き語りスタイルが花開くのは後年のことだが、すでに60年代半ばの時点からケニーとラテン音楽の相性は抜群だった。おまけに本作には、独語で歌われる《メキシコ・ギター》という曲も収められている。メキシコ音楽風味と独語のコンビネーションの妙味も、この時代ならではのもの。と同時にケニーのコスモポリタン性が伝わってくる。