「バッハは小川(Bach)ではなく大海(Meer)である」と表現したのはベートーヴェンだが、そうした「すべての音楽の父」的なイメージではなく、もっとずっとローカルな、ひとりの人としてのバッハの素顔を追った一冊。「街」「宗教」「家庭」など章ごとに視点をがらりと変えて、バッハの生きざまを詳細かつ丁寧に描きだしており、読了後に得られるものは多い。特に「街」の章の充実度は素晴らしく、実際にその地を訪ねてみたくなることだろう。歴史上の偉人であっても、特定の時代や土地といったものと密接に結びつきながら生きていたのだということを、改めて思い起こさせてくれる良著。