聴き手の時間感覚を狂わせる、久保田麻琴ならではのマジカル・ミステリー・ツアー

 〈久保田麻琴 沖縄音楽再発掘プロジェクト〉と銘打たれた4枚のCDがここにある。かの地の音楽の深奥なる世界に触れられる楽しみと同時に、時空間を飛び越えて別世界へとワープするようなこの感覚。さすがである。この4枚のコンピもまた、歴史の古層に眠る精神や地霊を呼び起こす彼ならではのマジカル・ミステリー・ツアーというべき刺激的な作品となっている。

VARIOUS ARTISTS かなす ウチナー Columbia(2018)

VARIOUS ARTISTS かなす ミャーク Columbia(2018)

VARIOUS ARTISTS かなす ヤイマ Columbia(2018)

 内訳だが、最初の3枚は、1965年に民俗学者の三隅治雄監修で制作された16枚組レコード『沖縄音楽総攬』の音源からウチナー、ヤイマ、ミャークという切り口でコンパイルした〈かなす〉シリーズ。久保田が激しく打たれることとなった未知なる響きを追体験させてくれるようなこれらのディスクには彼自身がフィールド録音し、まとめた古謡集〈南嶋シリーズ〉と同様の感触がある。なかでもミャーク編を彩る土着的で神々しい歌声にはこちらの感情を激しく揺さぶらずにはおかないおっかないパワーがあって、病みつきになると思われる。注目したいのは、3枚それぞれにharikuyamaku(銀天団)、ミキオ(BLACK WAX)&久保田麻琴、そして久保田麻琴によるリミックス曲が入っていることであり、これらは古謡のなかに眠る霊気を引き出し、聴き手の時間感覚を狂わせる役割を担っている。

 

VARIOUS ARTISTS ハイサイ! 沖縄 Columbia(2018)

 そしてもう1枚が、竹中労プロデュースの沖縄民謡シリーズ10タイトルの音源(2014年にCD化された際、久保田がリマスタリング作業を担当)から選りすぐった15曲にマルフク・レコードの音源などを散りばめた『ハイサイ! 沖縄』。幕開けに登場するのは、喜納昌吉と喜納チャンプルーズの《ハイサイおじさん》だ。40数年前に西表島を旅行中、偶然にバスの車中で耳にして衝撃を受け、この曲を本土へと運んだのは他でもない久保田である。あのとき彼が受けた感銘をわれわれもバスの乗員となって追体験できるようなワクワク度の高い1枚となっている(ここにもオオルタイチのリミックスを収録)。あゝ眩暈が止まらない。