多数のゲストをフィーチャーしたトリオ編成で挑むハイレゾの世界

 「CDというメディアが出来てそろそろ40年。ひとつのメディアがこれほど市場を独占したことは、歴史上でも稀です。そろそろ僕も次時代へ向けて身を晒し、その中でどんな表現ができるか真剣に探っていかなければいけない。その表明がここ数年の模索でした」

 そんな活動とともに数多いバンドのサポートや、後身指導の多忙にかまけて、前作《アサンブラージュ》の録音からすでに6年が経過していた。そこでハイレゾ・レコーディングの優良さを検証するため、久しぶりに自己名義で立ち上がり、初心に戻り新作を構想してみたいという、心底からの衝動が起こっていた。

 「ここのところ急成長を遂げるハイレゾの長所を引き出すには、小編成を大きな部屋に集め、限りなく制約のない環境で互いを闘わすこと。よって素材はスタンダード…今回は“バップ”を感じさせるジャズメン・オリジナルを選び、一発録りすることにしました」

大坂昌彦 トリコラージュ  Paddle Wheel/キング(2018)

 全編をトリオ編成に限定した。これは24年前の初リーダー作で試したやり方で、まさに初心に帰った趣向だ。同じく1曲に一人ずつゲストを招き、全体を通してコラージュ的パノラマを現出させることにした。24年前はまだ“ジャズ維新”の季節で当時の若手が勢揃いしたが、今回はこの世代の部分が異なってくる。

 「大御所の大森明さんや宮之上貴昭さんはどっぷりしたバップ世代で、僕と同世代の吉岡秀晃さん、今泉正明、椎名豊たちはゴーイングアヘッド型。これに岡崎好朗やパット・グリンのテクニカル世代が続き、閃き派とも言える西口明宏、山田拓児、馬場孝喜、そして弱冠27歳の新鋭・曽根麻央という達観派(笑)。そんな趣向を違えた、でも内奥に“バップ”を堅持する世代の代表者をシャッフルし、僕のドラムと川村竜のベースとで、今にリメイクしたわけです。編曲も練りましたが、結局その場の即興のようなものでしたね」

 時系列で緊張・緩和・緊張・緩和の波を打ち、世代ごとソートしても緊張と緩和に振り分けられていく。それを個性的リズムでひとつの流れにし、両側から強力なボルトで引き締めにかかった。ただこれは一発録音の所為か、どの曲も整然とせず、必ずこちらの老婆心を煽る“躓き”が音のヒダの中に取り残されている。

 「決めたとおりのエンディングにならなかったり、間違えた譜面を即時的に修正しながら演奏したものが、そのまま記録されました(笑)。でもそれをクリアする瞬間の緊迫感と高揚感が音の魅力に昇華し、この思ってもみない収穫が、作品を輝かせているんですね」

 “業界きってのハイレゾ通”たる大坂の、本人名義では初となるネイティヴDSD11.2MHz録音による超高音質作品。オーディオ・ファンも唸る極上感。

 


LIVE INFORMATION

「TRICOLLAGE」発売記念ライヴ(3days)
○9/15(土)~17(月・祝) 会場:お茶の水NARU
・15日 山田拓児(ss)西口明宏(ts)今泉正明(p)パット・グリン(b)
・16日 曽根麻央(tp)石崎忍(as)熊谷ヤスマサ(p)パット・グリン(b)
・17日 岡崎好朗(tp)大森明(as)吉岡秀晃(p)井上陽介(b)

東京キネマ・ジャズトリオ ライヴ
○9/11(火) 会場:ミューザ川崎

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