生粋のLAっ子でドラマーのコールは、ノウワーでも大活躍

ルイス・コールは、生まれも育ちもロサンゼルス、最終学歴も同地の南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校という生粋のLAっ子だ。ソーントン音楽学校は、リー・リトナーやトム・スコットといった優秀なジャズ~フュージョン・ミュージシャンを多く輩出している名門で、コールも当初は地元のジャズ・サークルでドラマーとしてキャリアをスタートしている。ちなみに彼がドラマーとして尊敬しているのは、トニー・ウィリアムス、ジャック・ディジョネット、ネイト・ウッド、キース・カーロックとのこと。うわっ、本格派!

そんなガチガチのフュージョン・ドラマーだと思われていた彼がポップ・フィールドで注目されるようになったきっかけは、友人のジャック・コンテ(ポップなヴィデオで知名度をあげたポンプラムースのメンバー)から勧められて始めたYouTubeだった。YouTubeで超絶技巧のドラム・プレイとユニークな自作曲が評価されるようになった彼は、大学時代の仲間、ジェネヴィエーブ・アルターディとポップ・ユニット、ノウワーを結成する。

その音楽性がどんなものかは、『Time』の2曲目に配置されたアルタディ参加曲“When You're Ugly”を聴けばだいたいわかるだろう。EDMに影響されたサウンドながら、複雑なハーモニーと諧謔性に富んだ歌詞、そしてキュートな女声ヴォーカルのコンビネーションは、まるでピチカート・ファイヴやCapsuleへのLAからの回答であるかのよう。ネット上で人気が沸騰したノウワーは、あのクインシー・ジョーンズ御大からイヴェントに招かれたり、レッド・ホット・チリ・ぺッパーズのオープニング・アクトを務めるなど大活躍。今年5月には来日公演も行っている。

『Time』収録曲“When You’re Ugly”

 

サンダーキャットのライバルがブレインフィーダーからデビュー!?

そんなノウワー名義の活発な活動を知っていただけに、コールがここにきてソロ・アルバム『Time』を発表したことには少々面食らった。もっとも、レーベルの名前を見て〈なにか理由があるにちがいない〉と思ったわけだけど。そのレーベルとは、LAニュー・ジャズ・シーンの中心人物にして、現地ヒップホップ・シーンにも顔が効く、フライング・ロータス主宰のブレインフィーダー。〈ヒップホップ時代のAOR〉とでも呼ぶべきサウンドを披露したサンダーキャットの大ヒット作『Drunk』(2017年)のリリース元でもある。

実はサンダーキャットとコールは長年の友人であり、『Drunk』収録曲“Bus In These Streets”と“Jameel's Space Ride”は2人の共作によるものだった。そして『Time』収録の“Tunnels In The Air”も2人の共作曲である。互いのアルバムで仲良く共作曲を発表し続けるなんて、まるで『Drunk』にも招かれていたマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスのようではないか。おそらくフライング・ロータスは、コールにサンダーキャットとタメを張れるようなポップ・アーティストとしての可能性を見出したのだろう。

サンダーキャットの2017年作『Drunk』収録曲“Bus In These Streets”
 

こうした期待に、コールは見事に応えている。“Everytime”や“Phone”“Things”といった曲ではLAロックのルーツといえるビーチ・ボーイズからの影響が濃厚に感じられるし、“Real Life”では、疾走感溢れる16ビートの上でゲストのブラッド・メルドー(!)が流麗なピアノ・ソロを展開。

そして“Last Time You Went Away”と“Things”では、 24 人編成のストリングスをバックに、愛の不毛が切々と歌われる。ここでのコールの歌声は、やはりLAのアンダーグラウンド・シーンからポップ・フィールドに進出して成功を収めたメイヤー・ホーソーンを思い起こさせる。

『Time』収録曲“Things”