COLUMN

ジョン・コルトレーン 没後51年目、インパルス期の“聖者”が幻のスタジオ・レコーディング音源と、傑作群のSA-CD化で蘇る

©Chuck Stewart Photography, LLC

没後51年目、インパルス期の“聖者”が幻のスタジオ・レコーディング音源と傑作群のSA-CD化で蘇える

JOHN COLTRANE Both Directions At Once: The Lost Album impulse!/Verve(2018)

 ジョン・コルトレーンが亡くなってから、すでに半世紀以上の歳月が流れてしまったことになるが、彼がのこした音楽の遺産はすこしも色褪せることなく、いまなおジャズの世界の“古典”として確たる地位を保っており、彼のスピリットや音楽のエッセンスも伝承されて、今日のプレイヤーたちにも多くのインスピレーションを与え続けている。そんなコルトレーンの偉大さをいやが上にも見せつけられるような貴重な未発表演奏テープが発掘されて陽の目をみることになった。『ザ・ロスト・アルバム』と題されたアルバムの音楽は1963年の春、コルトレーンがレギュラー・カルテットを率いてニュージャージーにあるルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでおこなった正規のレコーディング・セッション。当時は、いくつかのアルバムの間に挟まれて未発表になっていたものの、同時期の作品と比べても優るとも劣らないほどに内容は濃い。《アンタイトルド・オリジナル11383》《同11386》(数字はマスター番号)と題されている2曲の自作曲での、あくなき飛翔を思わせるソプラノ・サックス・プレイ。そしてコルトレーン・ファンにはおなじみの《インプレッションズ》や《ネイチャー・ボーイ》はピアノレスのトリオ編成で、いっそう冒険心あふれる演奏が聴かれる。60年代ジャズの最前線にあって、即興演奏に対する探求心をむき出しにしながら、ひたすら前へ前へと走り続けていたコルトレーンの姿がストレートに映し出されていて、胸が熱くなる。レハールのオペレッタ曲《ヴィリア》は、すでにソプラノを吹いたテイクが世に出ているものの、今回は初めてテナー・サックスによるバージョンを耳にできるのが興味深い。このセッションのマスターテープはすでに廃棄されてしまったことが明らかになっていて、コルトレーンの遺族が保管していたテープ(録音当日にコルトレーン用にコピーされたサブ・テープ)から制作されたものであるところから『ザ・ロスト・アルバム』というタイトルが付けられており、“奇跡の発掘”というキャッチコピーも、すこしも大袈裟なものではない。

 そして、ほぼ同時期に録音されたインパルスの名盤5点も、タワーレコードの手によってSACD化されたものがリリースになる。もともと音の良さは定評あったものであるが、今回のSACDのすべてに共通して言えるのは、旧盤と比べて楽器の輪郭がはっきりと出ているという点。それによって楽器の定位が明瞭になり、生々しさが増している。コルトレーンが一歩前に出て吹いているようなリアリティを感じることのできるのが、このSACD盤なのだ。それは『バラード』の冒頭《セイ・イット》の吹き出しから顕著で、サックスのベルから出てくる空気の音圧のようなものまでが、とても生々しく耳にできる。それぞれの楽器の音の分離が良くなっているのも特徴で、『至上の愛』では4人のメンバーが絡み合いながら音楽が流れてゆくのが、いっそうリアルに分かる。『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』のハートマンの太くて温かい声も、さらに低いほうに伸びるとともに、豊かな表情をもって届いてくる。ふくよかでありながら、いささかの曖昧さもない表情。『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』でのエリントンのピアノも、ぐっと近くに感じられる。そして『コルトレーン』の一曲目《アウト・オブ・ジス・ワールド》のイントロ部分で、ジミー・ギャリソンの強靭なベースにエルヴィン・ジョーンズが叩き出す複雑なビートが絡み合ってくるところもリアリティが格段に違う。これら5枚の作品は、すでにコルトレーン・ファンにはおなじみの定番であるものの、SACD化によってあらためて素晴らしさを認識することになる。今回のタワー盤はハイブリッド仕様なので、あらゆるCDプレイヤーで再生が可能。そのCDレイヤーも新たなマスタリングによるものであることも付記しておきたい。

 


7.11 ON SALE タワーレコード限定/完全限定盤
TOWER RECORDS/UNIVERSAL JOHN COLTRANE IMPULSE SA-CD HYBRID SELECTION

関連アーティスト