COLUMN

インターポール再入門―新作『Marauder』とファースト15周年ライヴを機に、NYを象徴するバンドの歩みを振り返る

Photo by Jamie James Medina
 

インターポール再入門
―インターポールはインターポールでしかない

ポスト・パンク、NYインディー・シーン――インターポールを形容するときに付随してきたいくつかの枕詞たち。バンド自身はデビュー時にポスト・パンクというジャンルに閉じ込められることに強烈に抵抗していたし、結果的に広く流通した表現はなかった。

それは幸か不幸か、ジャンルを象徴させられることでバンドが停滞してしまうことから解放したと同時に、〈インターポールが何者か?〉をわかりにくくしたことで、バンドを知るきっかけを減らしてしまったのかもしれない。

しかし、いまや〈インターポールが何者か?〉という問いにジャンル名で答える必要はないだろう。彼らは21年のキャリアで〈インターポールはインターポールでしかない〉という場所まで来たのだから。それはレッド・ホット・チリ・ペッパーズやU2といったバンドたちがいる稀有な場所でもあり、市場からのプレッシャーのなかでブレずにいた者たちだけが辿り着ける場所だ。

本稿では〈インターポール再入門〉と銘打つことでバンドのヒストリーを振り返りつつ、第二最盛期を迎えつつあることを示した久々の快作でもある新作『Marauder』について紹介したい。

INTERPOL Marauder Matador/BEAT(2018)

インターポール結成
―アメリカに彼らの居場所はなかった

まずはバンドの成り立ちから始めよう。結成は古く、97年に遡る。ポール・バンクス(ヴォーカル/ギター)とダニエル・ケスラー(ギター)、カルロス・デングラー(ベース。以下、カルロスD)がNY大学のクラスメイトであったことがきっかけ。いまでこそ生粋のニューヨーカー然とした佇まいで街を象徴するような印象があるが、グランジの残り香とラップ・メタルの隆盛が始まりつつあった当時のアメリカに彼らの居場所はなかった。

そんな彼らに目をつけたのは、後にトレンドを一変させるストロークスと同様〈アメリカのメインストリームが見落としている場所〉を発掘するイギリスだった。バンドはまず名門のインディー・レーベル、ケミカル・アンダーグラウンドからEPをリリース。

そして2000年にはドラマーが現在のサム・フォガリーノに替わり、かねてからデモを送り続けてきたNYの老舗インディー・レーベル、マタドールとの契約を勝ち取る。そして2002年にデビュー作『Turn On The Bright Lights』のリリースに漕ぎ着けることになる。

最新作で6枚目となるフル・アルバムをリリースしているインターポールだが、今回は各アルバムを紹介する形式でその歩みを振り返りたい。

 

ファースト『Turn On The Bright Lights』
―絶賛されたデビュー作、マンハッタンの街のドキュメント

まずはデビュー作の『Turn On The Bright Lights』。代表曲“NYC”の「地下鉄はまるでポルノ、通りは混沌としている」という歌詞の通り、洗練と粗野が同居したマンハッタンの街の空気をドキュメントしたような音像が印象的だ。

“Obstacle 1”や“PDA”、“Stella Was A Diver And She Was Always Down”のような直線的で勢いがあり、強力なフックのある曲も数多い。これら代表曲はいまでもライヴのハイライトでもあり、色褪せていない。メディアの評価もすこぶる良好で、ピッチフォークは何度もこの作品の時代性と質の高さを讃えているほどだ(2002年は年間ベストにも選出)。

2002年作『Turn On The Bright Lights』収録曲“NYC”

 

セカンド『Antics』
―初心者にもおすすめの名作

そしてセカンドの『Antics』(2004年)。ファーストでの成功の勢いをそのままにバンドの強みを洗練させ、ますますキャッチーなフックを手に入れ、ひとつの完成形を見たアルバム。全曲シングル・カットをしてもおかしくないほどキャラクターが強い。ミシェル・ウエルベックとアーネスト・ヘミングウェイを混ぜ合わせたような、むせ返るほど異様に濃密な男の性と愛の葛藤を描いたポールの歌詞もさらに筆が冴えている。

“Evil”をはじめ、カルロスDの病み付きになるベースラインが華開いたのも同作。クオリティー、そしてセールスも両立させた、〈セカンド・アルバム症候群〉もなんとやらの名作で、取っ付き易さからいっても初心者はこの作品から聴くことをおすすめしたい。

2004年作『Antics』収録曲“Evil”

 

サード『Our Love To Be Admired』
―受難の始まり?

次はサード・アルバム『Our Love To Be Admired』(2007年)。メジャーのキャピトルに移籍し、マネジメントもコールドプレイを担当する3Dに変更と、キャリアとして大きな一手を打った作品。タイトルも大仰だ。

プロデューサーとしてリッチ・コスティを迎え、スケール感のあるメジャー仕様にビルト・アップされた、これまでの集大成的な趣き。ハイライトはバトルス(当時)のタイヨンダイ・ブラクストンも絶賛した“The Heinrich Maneauver”。ただプロダクションはややマッチョ過ぎで、音の塗り重ねの過剰さが息苦しくもある。

2007年作『Our Love To Be Admired』収録曲“The Heinrich Maneuver”
 

バンドは否定していたが、明確にネオ・スタジアム・ロック・バンドを志向していたように邪推する。ただタイミングが悪かった。メジャー・シーンのトレンドが次第にR&B、ラップやガールズ・ポップにシフトしていくなか、ロックは分が悪く、狙いは奏功したとは言えない(とはいえ、NYインディーでもどこか浮いた存在でもあったがゆえ、ここから彼らは孤高の立ち位置でキャリアを進めていくことになる)。

決して駄作ではなく、メジャー移籍の甲斐もあってチャート・アクション的にはバンド史上最高を記録したものの、受難の始まりとなった作品とも言える。

 

4作目『Interpol』
―成熟期か、停滞期か

続く4枚目はバンド名を冠した『Interpol』(2010年)。原点回帰的な意味合いか、メジャーでの結果が芳しくなかったことも影響したのか、レーベルは再び古巣マタドールに復帰。作品自体は見方によっては成熟期とも、停滞期とも言える内容。

“Summer Well”や“Barricade”のようなシングル向きの曲もあるのが、あくまでも拡大再生産(≒マンネリ)の域を出ない印象で、プロダクションもアラン・モルダーの音の洪水的な装飾は決してハマりが良くなかった。

2010年作『Interpol』収録曲“Barricade”
 

チャート・アクション的には前作に近い結果を残したものの、いよいよロックが取り残されはじめた時代性もあり、目立った結果を残せず。ただ、トレンドにおもねることはせず、あくまでもインターポール印を貫いた点は彼ららしい選択。

そしてこの時期最大の変化と言えば、本作録音後にバンドの重要なアイデンティティーであったカルロスDが俳優を目指すために脱退したことだった。

 

5作目『El Pintol』
―メンバー脱退、そして新生インターポールの誕生

カルロスD脱退後初となるアルバムが5枚目の『El Pintol』(2014年)。4年のインターヴァルとカルロス不在が音に混乱をもたらすという惨事は避けつつ、〈Interpol〉のアナグラムになっているタイトル、そしてデビュー作と同じカラーリングのジャケットで、新生インターポールとして仕切り直したタイトな仕上がりの作品になった。前作までの〈ヴォリューム〉重視の音の増強から〈質〉への転換を狙ったのか、バンド・アンサンブルのソリッド化にフォーカス。結果、本質を奪回したアルバムと言える。

スタジアムやアリーナを埋めるという夢想に足元を掬われることなく、すんなりとこだわりを捨てられたことが次作、つまり最新作で実を結ぶことになる。

2014年作『El Pintol』収録曲“All The Rage Back Home”

 

最新作『Marauder』
―第二最盛期を予感させる快作

再び4年のブランクを経て去る8月にリリースされた最新作が『Marauder』。前作において3人で作り上げたアンサンブルがよりソリッドになり、ポール・バンクスがベーシストとして習熟したためか、直線的だったバンドのダイナミズムにグルーヴが加わり、より魅力を増すことに成功している快作で、第二最盛期を迎えることすら期待させる。『Turn On The Bright Lights』15周年記念ツアーを経たこともバンドのテンションの向上に寄与したのか、とにかく勢いがある。

これまでプロデューサーの起用が奏功しなかったバンドだが、バンドの得手不得手に合わせるタイプでもあるデイヴ・フリッドマンの起用も当たりだった。前作でモノにした骨太なアンサンブルと今作で掴んだグルーヴを最大限に活かすアナログ・テープ録音の生々しいサウンドはぴたりとハマっている。

『Marauder』収録曲“If You Really Love Nothing”
 

ギター・プレイはダニエルらしさ、つまりインターポールらしさを貫きつつ、アップリフティング/ダンサブルという、これまでのインターポールを形容する言葉に似つかわしくないテイストを生んでいるのはサムのドラムとポールのベースだ。その成果がいちばん表れているのが、スウィング感あふれる“If You Really Love Nothing”と“It Probably Matters”。ファーストとセカンドの勢いが骨太になったような魅力は“The Rover”と“Number 10”から感じ取れるだろう。

SNSなどを見ているとセカンド以降ご無沙汰になっていたリスナーが、今作をきっかけに大勢戻ってきている様子が伺えるし、新たな聴き手を拡げていく可能性もあるアルバムじゃないだろうか。

『Marauder』収録曲“The Rover”

 

インターポールは自分たちを更新することでしか前に進めなかった
―13年ぶりの来日公演に向けて

デビュー時のインパクトが大きかったバンド/アーティストは、その後遺症もどうしても大きいもの。あれだけ将来を嘱望されながら空中分解しかかっているストロークスも含め、どんなバンドでも複数回のピークを迎えることは難しい。それは、『Californication』(99年)で復活し『By The Way』(2002年)を作り上げたレッチリ、オワコン化しつつあったバンドを『All That You Cant Leave Behind』(2000年)で回春させたU2など、超が付くタフで地力のあるバンドしか成し遂げていないもの。インターポールの新作『Marauder』は決定的な作品とまではいかないが、先の限られたバンドにしかできない第二最盛期に手を掛けるような、そんな作品になっている。

一度キャリアの絶頂を迎えたバンドがルーツに回帰していくことで居場所を見つけていくことは、よくあることだ。例えばキングス・オブ・レオンはフォークやカントリーに回帰していくことで地位を安定させつつある。そして、それには回帰できるルーツがあることも条件になる。しかし、NYという都市に生まれ育ち、回帰できるルーツがあるわけではないインターポールは、自分たちを更新し続けることでしか前に進めなかった。その事実は今作の躍進に繋がっているかもしれないと、ふと思ったりもする。

そんなインターポールは、新作を引っ提げて11月に、実に13年ぶりの単独来日を予定している。公演は『Turn On The Bright Lights』の再現ライヴも併せて行われる特別な仕様だ。せっかくの素晴らしい新作がリリースされた機会にこそ、アルバムを〈点〉で聴くだけではなく、バンドや時代のヒストリーという〈線〉で辿ってみることで来日をさらに楽しみにしてもらえるとうれしい。

ライヴのパフォーマンスが不安定であることで有名(特にポール)だったインターポールも、前作のツアー以降、遅まきながら開眼したのか、非常に高位安定な様を見せてくれているので、ぜひ来日に期待していてほしい。 

 


Live Information
〈Turn on the Bright Lights special show〉

11月6日(火) 東京 マイナビBLITZ赤坂
開場/開演:18:30/19:30
1F スタンディング/2F 指定:7,500円/\8,000(税込/ドリンク代別) 
※未就学児入場不可
企画・制作・招聘:クリエイティブマン
協力:BEATINK

関連アーティスト