©Nikolaj Lund

クァルテット界期待のクレモナ弦楽四重奏団、ベートーヴェンの全集完成

 2000年に結成され、いまやイタリアを代表するクァルテットとなったクレモナ弦楽四重奏団が、2012年から15年にかけて録音したベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集が完成した。みずみずしくクリアで凛とした音色、4人の弦の調和のとれたアンサンブル、前向きで聴き手に活力を与える響きなど、新たな全集の登場である。

CREMONA STRING QUARTET ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲全集 King International(2018)

 「結成してまだ10数年でベートーヴェンの全集を録音するのは、とても大きな挑戦でした。でも、この録音で全員が大きな飛躍を遂げ、ベートーヴェンの作品の深遠さが理解でき、構造の新しさ、創造性の豊かさなどに魅了され、演奏するたびに新たな発見があります。いまではベートーヴェンの作品は私たちの代名詞ともなり、誇りをもって演奏しています」

 メンバーはクリスティアーノ・グァルコ(第1ヴァイオリン)、パオロ・アンドレオーニ(第2ヴァイオリン)、シモーネ・グラマーリャ(ヴィオラ)、ジョヴァンニ・スカリオーネ(チェロ)。創設メンバーのクリスティアーノとシモーネが友人で、他のふたりが1年後に加わった。

 「当初はまず6カ月4人でやってみようという形で始まり、それがあと6カ月、また6カ月と更新されてずっと続いてきちゃったんです(笑)。いまはこの音楽的結婚はとてもうまくいっている。第1ヴァイオリンはベートーヴェンのすべての音符を分析し、構造を把握し、演奏を高いレヴェルにもっていかなくてはなりません。第2ヴァイオリンは低弦と高弦をつなぐ役割。4人の音に秩序をもたらすことが必要です。ヴィオラはベートーヴェンも弾いていた楽器。全体の音楽のなかでここがしっかりしないと意義がなくなってしまいます。チェロは基礎を担い、ハーモニー、リズムのベースを刻む役割。安定感を要求されます」

 彼らは各々の役割を明確に把握し、自分のポジションに誇りをもち、常に前向きにとらえている。

 「私たちはイタリア弦楽四重奏団のファルーリ、アルバン・ベルク弦楽四重奏団のバイエルレに師事し、古典作品の様式をみっちり学びました。それが今回の録音に全面的に生かされています。ベートーヴェンはイントネーションひとつとっても、とても難しく高度なものを要求される。全身全霊を傾けて演奏しました。録音によって全員が成長し、作品の内奥に迫り新たな創造性を見出した。今後はもっと磨きをかけたい」

 録音では作品によって楽器を変えているため、多彩な音色が楽しめる。現在はクレモナ名誉市民の称号を与えられ、ストラディヴァリウス「パガニーニ・クァルテット」(日本音楽財団所有)を貸与されている。クァルテット界期待の4人、大海原への船出は前途洋々だ。