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再録ベスト盤と初のトリビュート作を機に振り返る、the band apartのインディペンデントな20年史

【PEOPLE TREE】 the band apart

再録ベスト盤と初のトリビュート作を機に振り返る、the band apartのインディペンデントな20年史

20年――インディペンデントな活動を貫くバンドとして、ここまでのキャリアを順調に、かつ大きな影響力を保ちながら積み上げてきたバンドはそうそう存在しないだろう。その名の由来となったタランティーノの映画のようにユニークで、マニアックながらもエンターテイメント性とパッションに溢れた彼らの歴史は、まだまだひとつの通過点に過ぎない。

the band apart 20 years asian gothic label(2018)

 今年、結成20周年を迎えたthe band apart(以下バンアパ)。その名をクエンティン・タランティーノの映画製作プロダクション〈ア・バンド・アパート〉に由来するバンドの歴史を遡ると、98年に荒井岳史(ヴォーカル/ギター)、川崎亘一(ギター)、原昌和(ベース)、木暮栄一(ドラムス)のメンバー4人で結成され、今日まで不動のラインナップを貫いている。20年ともなれば、一度や二度、メンバーチェンジを経験するバンドも少なくないので、これは本当にすごいことだと思う。彼らは2001年10月にファースト・シングル“FOOL PROOF”でデビューを飾った。ライヴハウス界隈でも、当時はまだ知る人ぞ知るバンドではあったが、パンク、メタル、フュージョン、ソウル、ジャズ、ボサノヴァなど広範囲に及ぶジャンルを自らのフィルターに通して、前例が見当たらない独自のロック・サウンドを構築していた彼らの音楽は、リアルタイムで触れたときにかなりの衝撃を受けたものだ。

 2000年代初頭のインディーズ・シーンと言えば、90年代にHi-STANDARDが作り上げたメロディック・パンク・ムーヴメントに多大な影響を受けたバンドたちが群雄割拠していた時期である。英語詞を歌い上げる3ピースのメロコア・バンドがとにかくライヴハウスには溢れていた。バンアパも例に漏れず、Hi-STANDARD並びにHi-STANDARDが中心となって催されたイヴェントに由来する〈AIR JAM世代〉と呼ばれたバンドたちによって作られたシーンの空気を吸っている。ゆえに〈英語詞で歌うことが当たり前〉というシーンのムードに倣い、バンアパも英語で歌っていたし、対バンするバンドもメロコア系バンドが多かった。ただ、英語詞という共通点こそあれど、バンアパは他のバンドとは異なるニュアンスの音楽性を聴かせていたので、完全にシーンからは浮いた存在であった。そんなこともあって周囲のバンドマンからは一目置かれていたし、ジャンル云々の壁を飛び越え、バンアパは楽曲の力でファンやリスナーを獲得していく。〈バンアパはバンアパというジャンルを鳴らしてる〉という認識は、デビュー時から現在においてもさほど変わらない。おそらく、本人たちは自分たちが純粋にかっこいいと思う音楽を鳴らしているだけだろう。あるいは、それが音楽をやるうえでのあるべき姿というスタンスをメンバー4人がちゃんと共有しているからこそ、一度もメンバーチェンジせずにここまで来れたのかもしれない。メンバーもよく〈ただの友達だから〉と口にしていたが、それがバンドの空気にも直結し、音楽的にも強い絆を生み出している要因だと言えるだろう。

 

トライの繰り返しから生まれたユニークな音楽性

 2002年5月のセカンド・シングル“Eric.W”を挿んで、2003年9月にはファースト・アルバム『K.AND HIS BIKE』を発表。現在のようにソーシャル・メディアが発達していなかった時代ではあったが、そのクォリティーの高さは口コミのレヴェルで評判を呼び、ライヴハウス界隈で彼らの人気は徐々に高まっていく。その後、メンバーみずから運営するレーベル〈asian gothic label〉を立ち上げ、また、バンド主催によるライヴ企画〈Smooth Like Butter〉が毎回大好評を博し、さらに活動の基盤を固めていった。2005年にはセカンド・アルバム『quake and brook』を発表し、さらにヴァラエティーに富む楽曲で度肝を抜く。なかでもメンバーが仮タイトルで〈ゴダイゴ〉と呼んでいた“real man's back”は、かのバンドのヒット曲“モンキー・マジック”を我流に昇華したサウンドで、その着眼点のユニークさにも思わず唸ってしまう。もっと言えば、ロック的なアプローチを使わずに、ロックな楽曲に仕上げてしまうのが彼らのすごさだと思う。当時の取材で原は「リチャード・クレーダーマンを聴きながら、ここからどうやって自分の好きなロックの要素を見つけようかという聴き方をしていた」と発言していたことがある。非ロック的なインスピレーション元から、いかに自分たちなりのロックを編み上げていくのか。その発想が他のバンドとは一線を画すオリジナリティーを生み出していたということも言えるだろう。

 2006年には、レーベルメイトであり、海を越えて音楽的に共鳴し合っていたインディアナ出身のバンド、モック・オレンジとのスプリット作『Daniel e.p.』を発表。お互いのカヴァーも収録するなどおもしろい試みでファンを楽しませてくれた。同年にはサード・アルバム『alfred and cavity』を完成。この作品ではクリーン・トーンのギターが多用されていて、クリーンな音色でいかにヘヴィーに聴かせるか、を試みている。それも自分たちらしい音を探求し続ける過程において、バンアパには避けては通れない道だったのだろう。人と同じことをやってもしょうがない。いや、それさえもバンド内で嬉々として楽しんでいるような印象さえ受けてしまう。加えて、メンバー4人の音色も1曲の中で有機的に結び付き、流れるようなアンサンブルも研磨され、楽曲のポピュラリティーもグッと底上げされていた。作品ごとに成長と進化を刻み付ける彼らだが、ますます唯一無二のスタイルを強固なものにしていった。

 

劇的ながらもさりげなく変化を見せていく音楽性

 2008年5月に4枚目のアルバム『Adze of penguin』、2011年3月に5枚目の『Scent of August』と作品を重ね、地に足を着けてマイペースな活動を続けていったバンアパだが、『Scent of August』のリリース直後に東日本大震災が起き、彼らだけでなく多くのバンドやアーティストが〈音楽をやる意味とは?〉という根本的な命題に直面せざるを得ない状況が生まれた。これまでの音楽性でいいのだろうか?と自問自答する人たちもいれば、音楽で何ができるのかと真剣に考える人たちも……。その流れの一例として、バンド界隈では、電気を使わずに表現できる弾き語りによるアコースティック・ライヴをやる人たちが増え、荒井も先輩に誘われたのをきっかけに、バンドの動きとは別にソロで弾き語りのツアーを行うようになった。被災した東北地方にも出かけたが、そこで英語よりも日本語のほうが圧倒的に伝わることを肌で感じた荒井は、バンアパの楽曲を日本語ヴァージョンに替えて歌うなど、日本語詞のおもしろさや可能性に気付いたという。そういった経験を踏まえ、2012年の『2012 e.p.』では全曲日本語詞にチャレンジした。従来の英語詞を貫いていた音楽性から考えると、劇的な変化と言えるのだが、それも違和感なくスッと聴けてしまうのがバンアパのマジックとでも言うべきだろう。言い方は極端かもしれないが、英語だろうと、日本語だろうと、スペイン語だろうと、ポルトガル語だろうと、彼らがやればバンアパの音楽になってしまう、とでもいうか。荒井のクセのないソウルフルな歌声には、何でも取り込んでしまう器の大きさがあり、歌詞を日本語にしたことで、図らずもそれが浮き彫りになったと言えなくもない。

 

自由奔放でありながら揺るぎない世界観

 続いて2013年に出た6枚目のアルバム『街の14景』では初の日本語タイトルを冠していることからもわかる通り、全曲日本語詞で統一された楽曲を収録。この頃になると、ライヴの雰囲気もイイ意味でくだけ、ステージ上でのメンバー間の会話も増えたりと、さらに外に開けたパフォーマンスを見せるようになった。そんなバンド内のムードを如実に作品へと反映させたのが2014年に出た『BONGO e.p.』だろう。ここにはメンバー4人それぞれが自身で作詞作曲を手掛けた楽曲が4曲収められている。日本語で綴られた歌詞からはメンバーひとりひとりのキャラが明確に表れるようになり、英語詞時代には絶対に味わうことができなかったスパイスがそこに加わった。言葉のチョイスもメンバーそれぞれで違うわけで、そこで押しの強い言葉が出てきても、荒井の歌声はいい意味でフラットに聴かせてくれるので、耳にすんなり入るのに心に深く残る、という新たなマジックを得ることになる。バンドのおもしろさを痛感するその作風で、またもやファンをアッと驚かせたのだった。ついでに言うと、タイトルで〈BONGO〉と堂々と謳っているにもかかわらず、音源ではボンゴではなくコンゴを全曲に導入している。こうした人を食ったような表現も実にバンアパらしい。

 バンドの本流と並行して、the band apart(naked)名義によるアコースティック編成のライヴや作品も発表したりと、ますますフレキシブルな活動に邁進していったバンアパ。基本はバンアパの持ち曲をアコースティック・セットで聴かせるというものだが、メンバー自身は〈別のバンド〉をやっているという感覚が強いようだ。たしかに、聴き慣れている楽曲もまた新鮮に響いてくるし、初めて楽曲に触れた人をも納得させる完成度の高さを見せつけている。改めてこうしてバンドの歴史を振り返ると、デビュー時から独自の音楽性を掲げながらも、作品とライヴを重なるなかでどんどんタブーがなくなり、守りに入るどころか、ガンガン自分たちらしさを突き詰めていく攻めの姿勢で音楽に取り組んでいるのがよくわかる。今年結成20周年という大きな節目を迎え、これからもさらに自由奔放に音を鳴らして欲しいと期待せずにはいられない。バンアパは日本の音楽シーンにおいて、比較対象のいないオンリーワンのバンドだと、つくづく思う。 *荒金良介

荒井岳史のソロ作品を紹介。

 

the band apart(naked)の作品を紹介。

 

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