聴き手の原風景を呼び起こすノスタルジックな感触と、強い作家性——この10年の経験を踏まえて出発点を見つめ直したバンドが旅の過程で刻んだモニュメント!

まだまだ旅の過程

 今年で活動10周年を迎えたザ・なつやすみバンドが新作『映像』を完成させた。2008年の結成後、片想いでの活動やceroなどのサポートでも知られるMC.sirafu(スティールパン/トランペット)が加入し、2012年に発表のファースト・アルバム『TNB!』は自主制作ながら〈CDショップ大賞〉にノミネート。以降はメジャーから2枚のアルバムを発表しているが、本作は〈4枚目のオリジナル・アルバム〉ではなく、あくまで〈10周年記念アルバム〉なのだという。

ザ・なつやすみバンド 映像 VYBE(2018)

 「〈10年バンドを続ける〉って、好きなことを好きな人たちと好き勝手やってきたって思えば全然大したことじゃない気もするけど、とはいえ結構大変なことだとも思うんです。でも、それって僕たちだけじゃなくて、協力してくれる人、一緒に演奏してくれる人、応援してくれる人たちがいたからここまでやって来られたっていうのがあるので、今回はそれに対する感謝を表しつつ、まだまだ〈バンド〉という旅の過程のアルバムだと思ってます」(MC.sirafu)。

 当初はリミックスなども含めた2枚組を想定していたそうだが、結果的には新曲/コラボ曲/リテイクを収録した全10曲のアルバムに結実。ノスタルジックな感触はそのままに、中川理沙(ヴォーカル/ピアノ)が近年傾倒しているミナスの音楽家からの影響もあって、聴き手それぞれの原風景を呼び起こすような楽曲が並んでいる。

 「最初にアレシャンドリ・アンドレスとか、〈新世代〉と呼ばれる人たちをまず好きになって、その人たちがどういう音楽を聴いて育ったかを辿っていくうちに、ミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタなども聴くようになりました。新世代の人たちって、自分の国の風景とか物語を大切にしながら新しいことをしている印象があって、私はブラジルのことはわからないけど、日本でずっと生活をしてきているので、日本の景色とか日本語の響きの美しさを改めて大事にしたいと思ったんです」(中川)。