COLUMN

プリンス『Piano & A Microphone 1983』 ピアノとマイクロフォンと殿下の1983年

The Prince Estate|Allen Beaulieu

ピアノとマイクロフォンとプリンスの1983年

 60回目の誕生日をプリンスが迎えた2018年の6月7日、プリンス財団とワーナー・ブラザーズ・レコードが共同で声明を発表。彼のアルバム『Piano & A Microphone 1983』のリリースが発表された。ベスト盤『4Ever』にて“Moonbeam Levels”が開陳された2016年、『Purple Rain Deluxe』という形で多くの未発表音源が日の目を見ることになった2017年に続いてのニュースといえるが、今回は作品自体の性質が少し異なっている。

PRINCE Piano & A Microphone 1983 NPG/Warner Bros./ワーナー(2018)

 表題は彼が行ったツアー〈Piano & A Microphone 2016 Tour〉を連想させるものだが、今回登場の『Piano & A Microphone 1983』は83年に自宅スタジオでカセットテープに吹き込まれたピアノ弾き語りの未発表音源。いわゆるアウトテイクという意味で完成型に近い未発表曲の多いプリンスだが、今回の音源は録音状況を考えても(当然ながら発表を想定していない)ラフ・スケッチやデッサンに近いものだろう。プリンス財団のアドヴァイザーいわく「この生々しく、身近に感じられるレコーディングは、プリンスが世界的なスターになる直前の、キャリア初期に行われた。形態としては彼が2016年に行っていた〈Piano & A Microphone〉ツアーと似たものだ」とのことだが、オーディエンスを前にしたパフォーマンスと、ひとり(かは知らんけど)自宅でメモを録ったような演奏ではシチュエーションがまったく異なるわけで、聴く側もそういう前提を受け入れて臨む必要があるのは言うまでもない。いずれにせよ、そこに言いようのない価値を感じる人が大勢いるということは間違いのない事実なのだが。

 9曲入り35分のアルバムは、『1999』と『Purple Rain』に挟まれた年の意味を伝える選曲が中心で、84年のシングルB面曲“17 Days”や曲そのものが未完成と思しき段階の“Purple Rain”、さらに映画「パープル・レイン」で使われるはずがシーンごとカットされていたジル・ジョーンズへの提供曲“Wednesday”が並ぶ。一方、82年作『1999』で世に出ていた“International Lover”も演奏しているから、そもそも本人がどういう意図でテープに収めたものなのかも気になるところだ。他には『Sign 'O' The Times』(87年)で世に出ることになる“Strange Relationship”があれば、『One Nite Alone...』(2002年)に“A Case Of U”(こちらにはジョン・ブラックウェルがドラムスで参加)として収められることになるジョニ・ミッチェルのカヴァー“A Case Of You”もある。また、今作のリリース告知と同時に先行公開されていた“Mary Don't You Weep”も注目で、19世紀の霊歌を殿下マナーの歌い口で披露したもの。こちらは本国で8月に公開されたスパイク・リー監督の映画「BlacKkKlansman」に使用されているそうだ。

 加えて“Cold Coffee & Cocaine”と“Why The Butterflies”という完全に未発表のナンバーも収録。いずれも83年の秋頃に録音されているようだが、その時期は映画/アルバム用に『Purple Rain』収録曲のライヴ録音を終え、そこからアルバムの完成に向けてレコーディングが進んでいた時期と推察できる(『Purple Rain Deluxe』で世に出た未発表曲も83年秋頃の録音が多い)。プリンス史で見れば例外的にリリースの少なかった83年ながら、こうして見ればタイムやアポロニア6の制作なども含め、その後の世界的なブレイクへの準備が整えられていた年だったということもできるだろう。そしてこの『Piano & A Microphone 1983』は、そんな折にふと書き留められた心象のデッサンなのかもしれない。

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