COLUMN

オーストラリアで国民的人気を誇るダンス・グループ、バンガラ・ダンス・シアターが埼玉初登場!

オーストラリアのアボリジナル/トレス海峡諸島の伝統的な舞踊と、現代的なダンスを融合させた、同国で国民的人気を誇るダンス・グループ、バンガラ・ダンス・シアターが埼玉初登場!

 世界中を見渡しても、歌と踊りがない文明はないだろう。オーストラリア先住民族は文字を持たないが、壁画や儀式や踊りと歌を6万5千年にわたって受け継いできた。

 バンガラ・ダンス・シアターは、1989年創設以来、そうしたアボリジナルの文化を採り入れてコンテンポラリー・ダンスの世界に独自の存在感を示してきたのである。「バンガラ」とは先住民の言葉で「火をおこす」という意味だという。

 ただ、この手のものが苦手な人もいるだろう。「なるほど意義深いことはよーくわかりましたけど、パフォーマンスとしておもしろいかというと、それはまた別というか……モゴモゴ」となる作品も多いからだ。

 しかし彼らは、驚異的な身体性と伝統を踏まえながら、しっかりと現代のカルチャーにアクセスできるセンスが両立している。安心してオススメできるカンパニーである。

 これまで3度来日しているが、筆者が強く覚えているのは2008年にオーストラリアのアデレードで開催された国際ダンス・フェスティバルでのことだ。これは基本的にコンテンポラリー・ダンスを中心としたフェスティヴァルなのだが、この年は先住民族の文化を紹介し、オーストラリアがいかに占領迫害の過去を悔い、今は共に歩もうとしているかを示す展示や映像、パフォーマンス等、特別なプログラムが組まれていたのである。

 この2008年は特別な年で、当時のケビン・ラッド首相が、歴史上初めて公式に先住民の人々に謝罪したのだった。正式なカンパニー公演というわけではないものの、その中でバンガラ・ダンス・シアターも紹介されていた。当時の筆者のメモを見ても、身体能力の高さに驚愕する言葉が並んでいる。

 そしてじつは、バンガラ・ダンス・シアター芸術監督のスティーヴン・ペイジは、2004年に、先住民として初めて同フェスティバルの芸術監督も務めた人だったのだ。

 ……とカンパニーの説明が終わったところで、今回来日する2演目について語っておこう。

『Spirit 2018』©Edward Mulvihill

 『Spirit 2018』は、ペイジ芸術監督の振付作品である。彼は2000年のシドニー・ オリンピックでは開・閉会式のセレモニーにおける先住⺠の場面の演出を手がけており、高い評価を得ている。これはいわば、彼らのベスト盤という構成である。年度が入っているのは、公演のたびに内容がアップデートされていくから。常に進化、常に最新版なのである。過去の映像資料を見ると、オーストラリア各地の物語や伝承が題材に採られている。白く塗られた身体で抽象的・神話的な世界を描くシーンもあれば、ディンゴ(オーストラリアの野犬)の魂を描く作品で現代の車が登場したりする自由さがある。

 ダンサー達はいずれも鍛え抜かれているが、バレエを中心としたヨーロッパのダンスに比べて圧倒的に腰が低く、中腰というより低空で移動するケモノがかった動きも多い。単なる民族舞踊の再現ではなく、オリジナル・メソッドの動きが見所だ。また過去作品には「黒い巨体に白い塗料をぬり、ラスボス感がハンパないド迫力キャラ」が出てくるので、ぜひ今回も期待したい。

『I.B.I.S』©Jeff Tan

 もうひとつの『I.B.I.S』はトレス海峡諸島にあるマレー島を舞台にした作品。タイトルは諸島産業サービス委員会(Island Board of Industry and Services)という、島に点在するマーケットである。

 トレス海峡諸島はオーストラリア北部とパプアニューギニアの間の島々である。先住民と言っても、トレス海峡諸島民は、大陸系のアボリジナルとは別のメラネシア系の海洋民族だと言われている。とかく「先住民」とひとくくりに考えがちだが、そこには当然、豊かな多様性があるのだ。この2演目が上演されることには、そうした面でも大切な意味がある。

 描かれるのは現代の街中で、着ている服も都会の格好である。冒頭のマーケットのシーンでは、ダンサー自身が缶や買い物カゴなど金属製品を使ったパーカッションで踊る。また海に関連したシーンでは、新しくも美しい演出が展開される。とくに水族館のシーンは必見だ。身体的な強靱さは言うに及ばず、多様なリフトを使いこなし、現代的な動きを重ねつつ、やがて幻想的なラストへ向かっていく。

 振付はカンパニー若手のデボラ・ブラウンとワアンゲンガ・ブランコである。ちなみにブラウンのプロフィールが、あまりにも素敵なので紹介したい。

 「バドゥ島ワカイド族、マレー島メリアム族の末裔で(略)ブリスベン生まれで、サメや蛾に対する信仰心がある」

 サメや蛾に対する信仰心! なぜその二つのチョイスなのかはわからないが、ステキという他はない。

 欧米中心の「いわゆるダンス」とはひと味もふた味も違う。そんなダンスと出会ってみてはいかがだろうか。

 


I.B.I.S
人々の笑顔があふれる美しいマレー島を舞台にした物語。立ち退きや気候変動の問題に遭遇しつつも、自らの文化を大切にし、陽気で楽観的に生きる人々の姿を描く。

 


Spirit 2018
芸術監督スティーヴン・ペイジがこれまでの作品から、傑出した力強いダンス・ストーリーを集め、構成。ディンゴの魂や、蛾のはかない一生など、オーストラリアの豊かな文化や歴史を称えた深遠な作品となっている。

 


INFORMATION

バンガラ・ダンス・シアター『Spirit 2018』『I.B.I.S』
○11月09日(金)19:00開演
○11月10日(土)15:00開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出・振付:
『Spirit 2018』:スティーヴン・ペイジ
『I.B.I.S』:デボラ・ブラウン、ワアンゲンガ・ブランコ

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