COLUMN

金沢21世紀美術館 日中韓のアートと出会うまちなか展覧会〈変容する街とアートを映し出す「変容する家」〉

川俣正《金沢スクオッターズプロジェクト 2018》

変容する街とアートを映し出す「変容する家」

 空きビルの内外に材木を張り巡らせたり、お寺の本堂内に鏡の間を設けたり、空き地にペットボトルを山のように積み上げたり……。金沢の市街地で開催中の「変容する家」の一部だ。同展は、日中韓のアーティストが各国の都市で作品を発表していく「東アジア文化都市2018」の核となるもので、今年の日本は金沢が舞台(ちなみに中国はハルビン、韓国は釜山)。

 3カ国から計22組のアーティストが金沢に招待され、地域の人たちと交流しながら作品を制作し、公共空間や空き店舗に設置した。しかし、日中韓の現代美術展も、アーティストと地域との交流も、街中で繰り広げるアートも、いまや珍しいものではなく、むしろ流行といえるくらいあっちこっちで行われているのが現状。そんなドングリの背比べのなかで一頭地を抜くには、中身で勝負するしかない。結論からいえば、中身はかなりよかった。挑戦的でインパクトの強い作品が多く、金沢まで見に行く価値はあると保証しよう。

 冒頭の空きビル全体を材木や建具で覆ったのは川俣正だ。金沢21世紀美術館のすぐ近くの5階建てビルを縦に貫くように、近所で集めてきた障子や襖、ドアなどを逆円錐形に組み上げ、屋上に材木で巨大な鳥の巣のようなかたちをつくっている。見る者は階段を上りながら(エレベーターは止められている)、各階で異なる素材によるインスタレーションに驚き、円形劇場のような屋上でホッと一息つく仕掛け。上下に移動しつつ作品を鑑賞するというのも珍しい体験だ。

 川俣は80年代からこうした廃屋での作品制作を続けてきた先駆的アーティスト。それだけに、手練手管のインスタレーションは見事というほかない。ちなみに川俣は当初、金沢城跡に天守閣みたいな塔を建てたいと提案したそうだが、さすがに許可が下りなかったという。

ソン・ドン《AT HOME OUT HOME(在家出家)

 お寺に作品を設置したのは中国のソン・ドン。山門には「在家」「出家」と書いた赤い提灯をぶら下げ、本堂看板をディスプレイに置き換えて「少林寺」と墨書する様子を流している。堂内にはおそらく中国の故事に基づくものだろう、鏡の間や「到此面壁」と描かれた白い壁、いわくありげなかたちの磁器、鏡を持った無数の手首などが畳の上に並んでいる。1つひとつの意味はわからなくてもおもしろさは伝わってくる。

ハン・ソクヒョン《Super-Natural:One day landscape in Kanazawa》

 緑地に緑色のペットボトルや瓶の山を築いたのは、韓国のハン・ソクヒョン。《Super-Natural:One day landscape in Kanazawa》と題されたこのゴミの山は高さ3メートルほど、裾野は長径10メートルくらいあるだろうか。これは金沢市内で1日に出るリサイクルゴミの量だという。いくら緑色で、いくら洗ったとはいえゴミはゴミ、美しいとはいいがたいが、消費社会への批判を込めたメッセージから目を背けることはできない。

 これら3点に関しては「そこまでやるか!?」というのが正直な感想だ。いずれも作品の一部が崩れる危険性や美観の問題をはらんでおり、主催者側も住民側もよくやらせたもんだと感心する。許可を得るためにおそらく水面下ではかなりシビアな交渉が行われたに違いない。もちろん観客にとってそんな苦労はどうでもいいことだが、しかし作品を見ればそうした緊張感や達成感が伝わってくるものだ。

宮永愛子《そらみみみそら(弁柄格子)》

 こうしたいささかセンセーショナルな作品に比べ、静かにじっくりと対面したいアートもある。たとえば、宮永愛子の《そらみみみそら》と題した作品。町家の吹き抜け空間のむき出しになった梁の上に、ガラス板を渡して十数点の陶器を置いたもので、じっと耳を澄ませていると「ピン」というわずかな音が聞こえる。これは釉薬にひびが入るときの「貫入音」だそうだ。宮永はナフタリンを使ったオブジェで知られるが、この「サウンドインスタレーション」は心に染みた。

山本基《紫の季節》

 最後に紹介したいのが、金沢在住の山本基による《紫の季節》。がん患者や家族が集うサロンの2階の赤紫色の床に、塩で花や網目や水流のようなパターンを線描した作品だ。山本は妹を若くして亡くしてから、大切な人の記憶を留めるために塩の作品を始めたのだが、一昨年には妻もがんで他界。会場のサロンはかつて山本が暮らした地域にあり、また妻と散歩した道には春になると紫木蓮の花が咲いたという。その花を描いたのが《紫の季節》だ。そういわれてもういちど絵を見直すと、人体内部の細胞や血流にも見えてこないだろうか。

 さて、これら20数点の作品が、金沢21世紀美術館周辺の広坂エリア、西側の寺町・野町・泉エリア、東側の石引エリアの3地域に固まって展示されている。各エリア間を車で移動すれば、日帰りで見ることも可能だ。

 ところで、北陸新幹線が開通したおかげで金沢には観光客が押し寄せるようになったといわれている。たしかに21世紀美術館を含めた一部の観光地はにぎわっているものの、周辺の商店街がシャッター街化しているのも事実。今回の企画が実現したのも、皮肉なことに、こうした空きビルや空き店舗がたくさんあったからともいえるのだ。そんな街の現実にも目を向けたい。

 


INFORMATION

東アジア文化都市2018金沢 変容する家
開催中~11月4日(日)まで
会場:金沢市内(広坂エリア、石引エリア、寺町・野町・泉エリア)
休場日:毎週月曜日(ただし、9月17日、24日、10月8日は開場)、9月18日、25日、10月9日
※会場により異なる場合があります

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