COLUMN

「なぁ、聞いてくれよ」カート・ヴァイルが新作『Bottle It In』に込めた〈親密さ〉の背景を探る

Photo by Jo McCaughey
 

USインディー・シーンを代表するシンガー・ソングライターにして、昨年はコートニー・バーネットとのコラボ作『Lotta Sea Lice』も人気を博したカート・ヴァイル。彼がソロ名義としては3年ぶりとなる新作『Bottle It In』をリリースした。本作には、アラバマ・シェイクスの傑作『Sound & Color』(2015年)で手腕を発揮したショーン・エヴァレットらが参加。先行公開された“Bassackwards”では、10分近くにも及ぶサイケデリック・トリップへと誘ってくれたが、はたしてアルバム全体としては、どんな物語が描かれているのだろう? リスナーとしてカートの作品を以前より熱心に聴いており、自身の最新EP『The Beach EP』では卓抜したサウンドメイクが光っていた音楽家、Okada Takuroこと岡田拓郎が紐解いた。 *Mikiki編集部

 

キャロル・キングからアーサー・ラッセルまでを繋ぐ、シンガー・ソングライター第二の最盛期

ラヴ&ピース、サイケの喧噪に疲弊した先に向かったパーソナルな心情の発露や、社会の急速なスピード感に対するアイロニーを抱えた70年代がUSシンガー・ソングライターの最盛期だとしても、2010年以降は二度目のそれが訪れていると思えるほどに、良質な作品が立て続けにリリースされている。このふたたびの盛り上がりに、現地点からそのトリガーを推察するのは難しいが、音楽における消費的な広告主義やソーシャルのすぎる在り方に直接的な反を押し付けるのとは異なった態度――自身の音楽趣向を素直に表現することに対して、時代が以前よりも寛容になっただけのことなのかもしれない。そういった意味では、シンガー・ソングライターはいつの時代でも、孤独であろうと良質な作品を作り続けてきたとも言えよう。

そのなかで近年の特徴は、70年代の所謂USシンガー・ソングライター的なソングライティングを手本にしながら、フリー・フォーク/ポスト・ロック経過後のプロダクションへの高い意識を持った作品が多いことだと感じる。ジェイムス・テイラーやキャロル・キングのソングライティング力はもちろん、例えばフリー・フォーク時代に再評価を受けたリンダ・パーハクスやデヴィッド・クロスビー、さらにこれまではUSフォークとの距離があったとも感じるアーサー・ラッセルやニュー・オーダーを、いとも簡単に繋ぎ合わせる柔軟なプロダクション力を持ち合わせた、良質な作品を見つけるのはたやすい。なかでも、ジェニファー・キャッスル『Angels Of Death』や(トロント産ではあるが非常にアメリカ的な)マシュー・“ドック”・ダン『Lightbourn』などは今年リリースの傑作として挙げられるだろう。

ジェニファー・キャッスルの『Angels Of Death』収録曲“Texas”

 

ギター的なソングライティングに回帰した『Bottle It In』

そんな現代USシンガー・ソングライターを代表する1人が、フィラデルフィア出身でウォー・オン・ドラッグスの初期メンバーとしても知られるカート・ヴァイル。彼がリリースした新作『Bottle It In』は、ウッズのジェレミー・アールが主宰するレーベル、ウッドシストからの初作『Constant Hitmaker』(2008年)から数えて、7作目のアルバムだ。なお、ローファイ・リヴァイヴァルの代表的なバンドと数えられたウッズも、近年はサウンド・アプローチが変化して、高音質の作品を残していることも書きとめておこう。

KURT VILE Bottle It In MATADOR/BEAT(2018)

カートの特徴と言うべき、バーズやジーン・クラークの流れを感じさせる直線的な8ビート、そしてジョン・フェイヒィ(その流れを受け継いだアメリカン・フィンガー・ピッカーのジャック・ローズもフィラデルフィア出身で、カートは度々ライヴに足を運び言葉を交わしたという)をはじめとしたタコマ系譜でアメリカン・プリミティヴのミニマル性を経由したハンマー・ビートは、出自が違えどクラウト・ロックとの近しさも感じさせてきた。そこにクレイジー・ホースを思わせるバリついたギター・トーンを重ねるという手法は、初期作品から現在にいたるまでカート・ヴァイルという音楽家の作家性となっている 。

ふまえて前作『B'lieve I'm Goin Down...』(2015年)を振り返ると、メロウなピアノ・リフで幕を開け、16ビートのハイハットとヴィブラフォンで奏でるインタールードが印象深い“Lost My Head There”、ともすればブラッド・メルドーのアメリカーナ作品に収録されていそうな、ピアノを主軸としたインスト・ナンバー“Bad Omens”など、その多彩な内容が耳に残った。また、ジム・オルークの『Bad Timing』(97年)を連想せずにはいられないフィンガー・ピッキングのギターと、ミニマルなドローンが重なり合う“That's Life, Tho(Almost Hate To Say)”も、ギター・ロックという枠組みを越えたサウンドに仕上げられており、ギター的なソングライティングから解き放たれた、さらなる境地を感じさせる1枚だった。

そういった意味では、新作の魅力、特徴のひとつは、エレクトリック・ギターによる多彩なサウンドにふたたびフォーカスした点が挙げられるだろう。“Loading Zones”は、ピーター・フランプトン“Show Me The Way”(75年)やジョー・ウォルシュ“Rocky Mountain Way”(73年)でお馴染み、ロック・ギターの古典的な飛び道具エフェクト、トーキング・モジュレーターを用いたイントロがなんとも印象的である。

また、10分近い“Bassackwards”では、全編にわたって逆再生されたギターのコード・バッキングが効果的に用いられている。そして、特にハッとしたのが“Check Baby”のギター・トーン。甘くてカリンとしたトーンで、サスティーンが削がれるようなフェンダー・ジャガーの特徴的な音色を、音源としてここまで生々しく捉えたトラックはほかにないと感じる。わかりやすいエフェクトが掛かっていないこの辺りのニュアンスをうまく説明するのは難しいのだが、エレキ・ギターに特有な軽く歪ませたときに聴こえるザラつきの解像度が非常に高い。

ともすれば70年代的とも言われそうなギター・トーンだが、このザラつき方はまったく異質のもので、非常に今日的なギター・トーンではないだろうか。ジャック・ホワイトの近年作にも似たような質感がある。また、本作では、ギターのコード・ストロークやアルペジオがグルーヴの核として大きな比重を持っており、意識的にギター的なソングライティングへと戻っていると感じる。

 

「なぁ、聞いてくれよ」とはじまる会話のようなアルバム

シンガー・ソングライターには、ざっくり分けて正直者タイプと嘘つきタイプがいるとしよう。そこで、どこまでが本心か、これはアイロニーなのか、虚構と自身の心象の境目がイマイチ判別の付けづらいボブ・ディランやファーザー・ジョン・ミスティなんかを嘘つきタイプとするなら、本作でのカート・ヴァイルは正直者タイプ。自身の心象と作品とがとても直結した、私小説タイプの1枚であると感じられる。

タイトル『Bottle It In』は、〈親しい友人や家族、バンド仲間、憧れのミュージシャン、 同僚、仕事仲間など限られた人たちだけが存在する空間〉を意味するという。親しい間柄の友人や家族に、そっと耳打ちするように思いのうちを打ち明けたと思ったら、その次の瞬間に相手に「もっと考えてから話せよ!」なんてゲラゲラ笑いながら言われるようなアルコールにブーストされた会話の瞬間のようであったり、特に誰かとシェアするわけでもなく、夜更けに寝落ちして朝起きたらすごく良い話をしていたはずなのに、すっかりその中身を忘れてしまったかのような一対一の一晩の記憶だったりを、筆者はこのアルバムに重ね合わせた。

今年で38歳を迎え、そろそろヴェテランの域へと差し掛かるカートの心象を歌うような“Rollin' With The Flow”や、家族と離れてのツアー生活へのボヤキのようにも聴こえる“Loading Zones”、“Hysteria”などが象徴的で、内省とも異なるが大人数でシェアするようなものでもない、それこそ親しい誰かに「なあ、聞いてくれよ」とはじめる会話のような歌詞が耳に残る。

カート自身、本作を指して「機内にいるときのあの気分だ。どこか別の場所に向かっていて、突然パニックに襲われて死ぬのが怖いと感じたら、皆大切な人々に愛していると伝えたくなるだろ」と語っている。カートが親しい相手へと向けた話は、彼に会ったことのない聴き手にもまた、いつかどこかでだれかと交わした会話を、素直に思い起こさせやしないだろうか。

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