NHK Eテレのデザイン「あ」――サウンド・デザインとアイデアの見本帳
大規模展開催中のNHK Eテレの番組のサウンドトラック。番組は佐藤卓を総合ディレクターに2011年に本格的にスタート、中村勇吾が映像を監修、小山田圭吾が音楽ディレクターを担当したのも大きな話題となった。番組は現在も継続し、番組内のコーナーから生まれた楽曲を編んだシリーズは『1』は5年前に、『2』と『3』が今年あいついでリリースとなった。
路線は変わらない。サウンド・デザインなる用語は、思い返せば1990年代末から2000年代はじめにかけてのIDM~エレクトロニカないし音響系界隈で頻々と耳にするようになり、ほどなく一般化したが、定義は明確ではなく、音響設計に自覚的なラップトップ・ミュージックといったほどのもので、受容形態ひとつでそれらは広義の電子音楽にもダンスミュージックにもアンビエントにもなりうる間口の広さもある。ともあれコーネリアス=小山田圭吾はそのような傾向にコミットするというより潮流をかたちづくったひとりであり、ことに『FANTASMA』から4年の間を置いた『point』でそのスタイルはゆるぎないものになった。徹底的に考え抜いた音を聴覚空間上に周到に位置づけ時間のストーリーを紡ぎ出す、その音楽的な方法に勝るとも劣らないのは視覚的な喚起力であるのはこの時期のMVで辻川幸一郎とのタッグがひとつの完成形をみただけでなく、のちのシンクロナイズド・ショーの原型ができあがっているのでもわかる。
本シリーズは、いわばその後十年のストックを元にした発展形で、中村勇吾というもうひとりの達意のコラボレーターをえたことで音楽と映像は従属関係をときはなち、たがいを挑発するというよりも創発する関係に入っている。私は以前中村さんに話をうかがったさい、コーナーの絵コンテをみせて説明しているあいだに小山田さんの頭のなかではもう音楽ができあがっている、とおっしゃっていたのもそのことを裏打ちするが、そのような着想の速度が小山田圭吾の本シリーズにおけるポップ性をきわだたせてもいる。ジングル的な楽曲も多く、断片的な印象も受けるが、短い尺のなかに耳のためのドラマが多々あり、音色や手法からメタファイブや『Mellow Waves』との位置関係を考えるのも楽しい。やくしまるえつこ、ショコラ、原田郁子、ハナレグミ、環ROY × 鎮座DOPENESS、高橋幸宏や坂本真綾からチボ・マット、さらにはアート・リンゼイまで、小山田圭吾を中心とする聴く交遊録と見なすこともできるし、参加者のだれもが遊び心と幼心と大人心をもっているのもいいですよね。(text:松村正人)
EXHIBITION INFORMATION
企画展「デザインあ展 in TOKYO」
(終了)~2018年10月18日(木)まで
○会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン(東京・お台場)
○総合ディレクター:佐藤卓
○映像ディレクター:中村勇吾
○音楽ディレクター:小山田圭吾
○展示構成、ディレクション:岡崎智弘/パーフェクトロン/plaplax(プラプラックス)
www.design-ah-exhibition.jp/
■山梨会場
会期:2019年4月から
会場:山梨県立美術館 (山梨県甲府市貢川1-4-27)
■熊本会場
会期:2019年6月から
会場:熊本市現代美術館 (熊本県熊本市中央区上通町2番3号 びぷれす熊日会館3階)