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カマシ・ワシントンやサンダーキャットらと並び、LAの新世代ジャズ・シーンにおけるメイン・プレイヤーと名高い鍵盤奏者、ブランドン・コールマン。フライング・ロータス主宰のブレインフィーダーとの契約が発表され、さらなる注目を集める彼が、同レーベルから新作『Resistance』をリリースした。ヴォコーダー歌唱と華麗なアンサンブルを掛けあわせながら紡ぐノリの良いグルーヴは、タキシードやトム・ミッシュらとも合わせて聴きたいブギー/ディスコ・サウンド。加えて、カマシ人脈も参加してのジャズやソウル、AORもブレンドされ、〈2018年のファンク最前線〉と言うべき一作にもなっている。本稿では、先日刊行した大和田俊之との共著「文化系のためのヒップホップ入門2」も好評なライター・長谷川町蔵が、LAという街の特性を切り口に、ブランドンと『Resistance』の魅力に迫った。 *Mikiki編集部

BRANDON COLEMAN 『Resistance』 Brainfeeder/BEAT(2018)

 

NY? いや、現在のジャズ中心地はLAだ

ジャズの中心地。そう言われて、ロサンゼルスを思い出す音楽ファンはあまり多くはないはず。ジャズはおおむねニューヨークで発展してきたからだ。しかし現代においては、LAこそがコンテンポラリーなジャズの中心地なのである。

理由はヒップホップとの距離の近さにある、サンプリングがサウンドの中心にあることから、ミュージシャンとのセッションを試みるラッパーがQ・ティップやモス・デフなど意識高い系に偏っていたNYと比べて、LAのラッパーとジャズ・ミュージシャンは歴史的にもっと親密だった。車社会の西海岸で作られるヒップホップは、カーステレオを前提にしたクリアーな音像を志向しており、サンプリングよりも生身のミュージシャンを用いてレコーディングやライヴを行うことが多かったからだ。そこにはジャズ畑のミュージシャンも含まれており、そのなかからヒップホップのプロダクションに関わるようになった者もいた。

スヌープ・ドッグやクラプト、YGといったギャングスタ・ラッパーのバックを務めていたサックス&キーボード奏者、テラス・マーティンもそのひとり。マーティンは、ケンドリック・ラマーが2015年に発表した傑作『To Pimp A Butterfly』において友人たちをレコーディングに呼び、ジャジーなテイストをアルバムにもたらした。そして同作でのプレイによって、サンダーキャット(ベース)やカマシ・ワシントン(サックス)といったミュージシャンが、一躍ジャズ・シーンを牽引する存在とみなされるようになったのだ。