ブラック・ハニーやドリーム・ワイフ、フィックル・フレンズを筆頭に、このところ女性をフロントに据えたバンドの活躍が目立つUKはブライトンのロック・シーンだが、男子勢だって負けてない! なかでも注目してもらいたいのが、本稿の主役であるマジック・ギャングだ。とはいえ、ご覧の通りちょっと冴えないルックス(失礼!)なので、心配になってしまうかもしれないが、中身の良さは保証済み。昨年に惜しまれながらも解散してしまったマッカビーズのフェリックス・ホワイトに才能を見い出され、新人の登竜門のひとつであるBBCレディオ1の〈Hottest Records〉にもシングルが選出されるなど、2015年に結成して以来、着実に人気を集めてきた4人組である。加えて、ウルフ・アリスやスイム・ディープらのオープニング・アクトを務め、〈レディング/リーズ〉や〈ラティチュード〉といった大型フェスにも出演し、さらにNMEアワードでは、現行のポスト・パンク・ブームを牽引するシェイムや、BBCの〈Sound Of 2018〉で1位になったシグリッド、ケンドリック・ラマーが所属するトップ・ドーグの新星SZAと並び、〈Best New Artist〉にノミネートされている。こうした追い風を受け、今年3月に満を持してファースト・フル・アルバム『The Magic Gang』をフェリックスが運営するレーベル、YALA!からリリース。今回その日本盤が晴れて登場する運びとなった。

THE MAGIC GANG The Magic Gang YALA!/ワーナー(2018)

 アート・パンクっぽいプロダクションが英国の若手グループの間でトレンドとなっているなか、本作はウィーザーやペイヴメントといった90年代のUSバンドを思い出させる雰囲気だし、ティーンエイジ・ファンクラブが好きな人もきっと気に入るはず。ということを大前提に、それらのフォロワー・バンドにありがちなこじんまりとまとまった感じがなく、適度に開けたサウンドになっているのは、プロデュースを手掛けたジョリオン・トーマスの手腕と言えよう。彼はU2の『Songs Of Experience』やケンドリック・ラマーの『DAMN.』、ロイヤル・ブラッドの『How Did We Get So Dark?』などにも関わってきた腕利きで、ここではマジック・ギャングの良い意味でのインディーっぽい蒼さを残しつつ、メジャーのフィールドでも通用する音を作り上げている。

 もっとも、このバンドの最大の魅力は何と言っても4人が書く曲の良さだ。アルバム冒頭の“Oh, Saki”から6曲目“Jasmine”までメロディアスなギター・ロックを畳み掛け、そこから後半に向けてだんだんとビーチ・ボーイズやトッド・ラングレンを思わせる内省的な楽曲や展開も登場。メンバーが60年代から現在までのロックをしっかりと辿って聴いてきたことを想像させ、それがヴァリエーション豊かなソングライティングに繋がっているのだと思う。とりわけ日本盤のボーナス・トラックに収められている“Getting Along”と“All That I Want Is You”のアコースティック・ヴァージョンを耳にすれば、彼らの美メロ作家ぶりがはっきりわかるはずだ。

 11月8日にはこの日本デビュー・アルバムを携えて、一夜限りの来日公演を代官山のSPACE ODDで行う4人。YouTubeで公開されているライヴ映像を観る限りでは、パフォーマンスのスキルも上々で、日本での初ステージと言えどもかなりの盛り上がりが予想される。メロディー良し、ライヴも良し。この機会に生で観ておくと数年後に自慢できるかもしれない――そう自然と思えてしまう有望新人バンドだ。   

 


マジック・ギャング
ジャック・ケイ(ヴォーカル/ギター)、クリス・スミス(ヴォーカル/ギター)、ガス・テイラー(ベース)、パエリス・ガイルス(ドラムス)から成るUKはブライトンの4人組。ホーム・スクールやイヤーズで活動していたメンバーが集い、2015年初頭に結成。同年6月にファースト・シングル『No Fun/Alright』を発表し、その後もコンスタントにEPを自主リリースしていく。2017年には元マッカビーズのフェリックス・ホワイトが主宰するYALA!と契約し、ウルフ・アリスやハインズの前座に抜擢。今年2月にNMEアワードの〈Best New Artist〉に選ばれて注目を浴びるなか、翌3月に本国でファースト・アルバム『The Magic Gang』(YALA!/ワーナー)を発表。このたびその日本盤がリリースされる。