新しい領域に踏み出したインパクト大の傑作!

 聴く者を圧倒させる音楽とはこういうものではないだろうか。隆盛する現在のブラジル音楽シーンの中でも、突出した才能の持ち主であるアントニオ・ロウレイロが、予想をはるかに上回る傑作を作り上げた。あらゆる楽器を操るマルチ・プレイヤーであり、美しい旋律を生み出すメロディメイカーでもあるというだけでも十分なのに、ここではさらに新しい領域へと足を踏み入れている。

ANTONIO LOUREIRO 『Livre』 NRT(2018)

 冒頭の“Meu Filho Nasceu!”から聴き進めてみると、その壮絶さは伝わるだろう。細かく刻まれるリズムは今のジャズのトレンドでもあるが、こだわり抜いた音のレイヤーにブラジル特有のグルーヴが絡み合い、プログレやミニマルミュージックにも通じる複雑かつ緻密なサウンドを構築している。しかし、難解さに陥ることなく、美しいヴォーカルが絡み合ってくるのだ。コーラスワークも効果的に差し込んで醸し出す浮遊感は、ミルトン・ナシメントなどのブラジル・ミナス一派や、パット・メセニー・グループに在籍していた頃のペドロ・アスナールを彷彿とさせるが、メランコリックに落とし込むのではなく、クールネスをたたえている。この感覚は“Jequitibá”、“Resistencia”と曲を聴き進めるごとに研ぎ澄まされていき、本作全体に通じるメインテーマとなっている。

 中盤以降のゲストを迎えた変化球もまたユニークだ。ジャズ・ギタリストのカート・ローゼンウィンクル、ピアニストのアンドレ・メマーリ、そして、奇才ルイス・コールが率いるノウワーの歌姫ジェネヴィエーヴ・アルタディ(ここまで書いて本作がノウワーと共通していることに気付いた)といった曲者たちをフィーチャーしながらも、完全にロウレイロの世界に巻き込んで見事な化学反応を起こしている。

 とにかく、どこから切り取っても強烈ながら、包み込むようなスケール感を伴った挑戦的な意欲作。もはや、ブラジル音楽という枠にとらわれていてはもったいない。とにかく、新しいサウンドを欲している音楽ファンは必ず耳にすべき傑作である。
新しい領域に踏み出したインパクト大の傑作!