この秋、クラプトンのファンにはうれしい贈り物が2つある。

 ひとつは映画『エリック・クラプトン-12小節の人生-』が日本公開されることである。ロック界最大のスターのひとりであるクラプトンの影の部分、母親の愛の拒絶、親友ジョージ・ハリスンの妻への愛、ドラッグ&アルコール依存症、息子の事故死などといった部分に焦点を当てたドキュメンタリー。全米の公開から1年余り。待ったよ、というファンは多いのではないか。

 そしてもうひとつが、クラプトン初のクリスマス・アルバムである本作である。クリスマス・アルバムというと、“企画物”の域を出ないのではないか? と思われるかもしれないが、さにあらず。ボブ・ディランの『クリスマス・イン・ザ・ハート』(09年)という傑作がクラプトンの頭のどこかにあったのではないか。ディランのクリスマス・アルバムが近年の“アメリカン・スタンダード”への傾倒の当然の帰結だとするならば、クラプトンのクリスマス・アルバムは、“ブルース”の一つの帰結を示すものになっている。

ERIC CLAPTON Happy Xmas ユニバーサル(2018)

 エリック・クラプトンのソロとしては24作目となる『ハッピー・クリスマス』は全14曲。《Silent Night》といったスタンダード曲に、新曲《For Love On Christmass Day》を収録。「ヴォーカルの間にどうやってブルースの演奏を取り入れていくかを試していたんだ。そこからそれを突き詰めていって、アルバムの中でも一番よく知られている《Have Yourself A Merry Little Christmas》が基礎となるスタイルのひとつになった」とのことである。

 このアルバムのトピックは、《Jingle Bells》が28歳で急逝したDJのアヴィーチーに捧げられていることだろう。アヴィーチーとの直接的な関係は不明ながら、「彼は意義、人生、幸せについて考え、本当に葛藤していました。彼は(そんな生活を)これ以上、続けていくことはできなかったのです。心の平穏がほしかったのです」というアヴィーチーの死に対する家族のコメントを読む時、クラプトンがアヴィーチーに“あり得たかもしれない自分”を重ねているとみることもできるかもしれない。

 音楽としてのブルース、人生としてのブルースを纏った至高のクリスマス・アルバムである。

 


CINEMA INFORMATION

映画『エリック・クラプトン─12小節の人生─』
監督:リリ・フィニー・ザナック
音楽:グスターボ・サンタオラヤ
出演:エリック・クラプトン/B.B.キング/ジョージ・ハリスン/ジミ・ヘンドリックス/パティ・ボイド/ロジャー・ウォーターズ/ザ・ローリング・ストーンズ/ザ・ビートルズ/ボブ・ディラン/他
◎11/23(金・祝)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
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