この1年で登場したフレッシュな注目作品を一挙紹介!

 


糸奇はな
ファンタジーRPGの如き幻想的な音世界

糸奇はな PRAY PHANTOM LILY(2018)

小学生時代にロンドンで観た「オペラ座の怪人」に感銘を受けたことを発端として芸大へ進学し、声楽を専攻。そんな経歴にも納得の神秘的なソプラノ・ヴォイスを武器に、作詞/作曲/編曲/打ち込みからピアノやフルートといった楽器演奏もこなし、イラストや版画、ゲーム制作などに至るまでに手を伸ばすクリエイター。昨年にはTVアニメ「魔法使いの嫁」のエンディング・テーマ“環-cycle-”の歌唱でメジャー・デビューも果たした彼女のファースト・アルバムがこの『PRAY』だ。人気ゲーム「UNDERTALE」の作者であるトビー・フォックスが作詞/作曲とコーラスで参加した“74”も含む本作の中に広がるのは、室内楽的な意匠と繊細なエレクトロニカを重ね合わせたサウンドで構築されるファンタジーRPGの如き幻想世界。儚さを保ちながらドラマティックに紡がれる楽曲群は、耳にした途端に物語へと惹き込む強い吸引力がある。疼くような寂寥感と清廉な慰めが同時に訪れるような聴後感もこの人特有のものだろう。 *土田

 


春ねむり
圧倒的なテンション&エモーションに見る普遍性と新味

春ねむり 春と修羅 パーフェクトミュージック(2018)

ポエトリー・ラッパー/トラックメイカーというスタイルで楽曲を紡ぎ、約2年の活動で着実にその名を広めてきた95年生まれの才媛による最新アルバム。随所でエレクトロニックなビートを鳴らしつつ、基調としているのはラウドでノイジーなパンク仕様のトラックで、その性急かつカオティックなサウンドに切羽詰まった心象を綴った言葉を乗せることで、圧倒的なテンションと鬼気迫るエモーションに満ち満ちた世界を全17曲のヴォリュームで作り上げている。特に、宮沢賢治による同名の詩を引用して宇宙のスケールから孤独を描写した表題曲がアグレッシヴでありながら静謐な美しさも湛えており素晴らしい。また、突然少年を迎えてバンド・サウンドで再構築した“ロックンロールは死なない”は、ロック寄りのアプローチから導かれた新たな方向性を示しているようで興味深い。ユースならではの屈託や怒りの感情を彼女にしかできないやり方で表現してみせた、普遍性と新しさを併せ持った作品だ。 *澤田

 


Nao Kawamura
先鋭的かつ多様な音を通じて見せつける非凡な表現力

Nao Kawamura Kvarda NAKED VOICE(2018)

ジャズとソウルの最前線に対するレスポンスを作品ごとに提示してきたシンガー・ソングライターのファースト・フル・アルバム。手練れのバンド・メンバーたちによるアンサンブルがエスノな要素やロックのダイナミズムなどを呑み込んでジャンルレスに拡張しながら、これまで以上に複雑かつ精緻に磨き上げたグルーヴを放出。とりわけ揺れを孕んだリズムが走ってプログレッシヴな展開を見せる“Hermes”が凄まじい仕上がりで、どこまでもクールに渡り合う主役のヴォーカルも頼もしい。“one more dose”や“Time is not on our side”といったスロウなファンクを乗りこなす様も見事だし、ラストに配されたオーセンティックなバラード“Watching you”の包容力に富んだ歌唱にはストレートに胸を掴まれる。先鋭的かつ多様なサウンドを通じ、歌い手としての非凡なスキルと表現力をさまざまな形で見せつける圧巻の一枚だ。 *澤田


【Nao Kawamura Kvarda Tour 2018】日程/場所:11月29日(木)大阪CONPASS、12月14 日(金)東京・渋谷WWW 詳細は〈www.naokawamura.com〉にて!

 


角銅真実
傑出した当世のアシッド・フォーク作品

角銅真実 Ya Chaika APOLLO SOUNDS(2018)

ユニークな感性を持ったパーカッショニストとしての側面はceroのライヴなどでも確認できるが、それは彼女の一部分に過ぎず、夢想的なメロディーを紡ぎ、イマジナティヴな楽曲をクリエイトするシンガー・ソングライターという顔があったりもする。石若駿の諸作においても耳にすることが可能な独特の浮遊感を湛えたヴォーカルがいっそう存在感を強めているこの2作目では、ceroのサポート・ドラマーである光永渉やyoji & his ghost bandの寺田耀児、異能のシンガー・ソングライター、滝沢朋恵といった面々と共にさまざまなドアの向こう側を描き出す刺激に満ちた冒険を敢行。自由度の高い演奏を各所に配しつつ、かなり実験的でありながらもずいぶんとポップな感触を湛えたサウンドを次々に紡ぎ出していく彼女のなんと勇壮なこと。当世アシッド・フォーク・アルバムの傑作のひとつとしても積極的に評価したい。 *桑原

 

mei ehara Sway KAKUBARHYTHM(2017)

may.eから名義を改め、辻村豪文(キセル)のプロデュースで完成させた最新作。金延幸子を想起させる柔らかくも凛とした歌声をミニマルなバンド・アンサンブルが支え、当人の持つフォーキーな詩情にナチュラルで奥深い色彩を与えている。ノスタルジックでいて、どこかモダンな音の感触が魅力的だ。 *澤田

 

高井息吹 世界の秘密 P-VINE(2017)

デビュー作ではピアノの弾き語りを基盤としていた彼女だが、新名義によるこの2作目ではファンキーなバンド・サウンドからジャジーなアンサンブル、エレクトロニカ調のトラックまでを動員。ヴァラエティーに富んだアレンジで、キュートで奔放なヴォーカルの多彩な表情を引き出すことに成功している。 *澤田

 

優河 魔法 Pヴァイン(2018)

たったひと節歌っただけでその場の色合いを劇的に変化させてしまう強力な歌声の持ち主である。相棒というべきアコギだけではなくエレキが多用されたこの2作目でも、その声の魔法はシティー・ポップ調の“夜になる”といったカラフルな曲などで強い威力を発揮。聴く者を遠い世界へと運んでいく。 *桑原

 

marucoporoporo In her dream Kilk(2018)

微睡むような音響の中で溶解する生楽器と電子音——このドリーミー&フォーキーな感触は、ポスト・ロック~エレクトロニカなアクトの多いkilkからのシンガー・ソングライター作品に相応しいもの。フアナ・モリーナ×ジョニ・ミッチェルな23歳らしからぬ歌声は、聴き手に大きな安寧を与えてくれる。 *土田