自分のなかから出てきた言葉で歌わないと、わかってもらえないと思うんです(折坂)

――お2人のソングライティングについてもお話を聞きたいんですが、折坂さんはどうやって曲を書くことが多いんでしょうか。

折坂「頭のなかにメロディーが浮かんだら、それをコードに起こして歌詞をつけていくというパターンが多いですね。トイレにいるときや散歩してるときに浮かんでくることもあるけど、何かに感動したときにメロディーを思いつくことも多くて。昨日もこれ(イ・ランの『神様ごっこ』)を聴いていたら、突然メロディーが浮かんできました」

イ・ラン「私も歩いていたり、自転車に乗ってるときにメロディーや歌詞を思いつくことが多い。浮かんできたら、(スマートフォンの)ボイスメモに録音して、夜、眠れないときにそれを聴き返す」

折坂「僕もボイスメモはすごく使ってます。深夜の路上で電話をするふりをしながら録音したり(笑)」

イ・ラン「自転車もいいよ。いくら大声で歌っても誰もヘンに思わないから(笑)。最近〈パンソリ〉を勉強してるんだけど……パンソリ、知ってる?」

折坂「知らないですね」

――韓国の伝統芸能ですね。日本の浪曲にも通じる語り物で、一種の音楽劇のようなものです。

イ・ラン「このアルバム(『神様ごっこ』)を作るとき、パンソリのことをちょっと意識してた。同じフレーズを繰り返すんじゃなくて、パンソリみたいに物語を語っていくものにしたかった」

パンソリの映像

折坂「『神様ごっこ』はブックレットが本の形になっていますけど、実際に本を読んでるような感覚を覚えました。歌なんだけど、朗読にも近いというか。イ・ランさんの話を一対一で聴かせてもらっているような感じがしました。ただ、イ・ランさんのなかにはパンソリのような物語が満ちていて、それを表現する手段のひとつとして歌があるという感じがするんですよ」

イ・ラン「うん、そうですね」

折坂「僕の場合、言葉の前に歌が先にあって、それを効果的に伝える手段として物語があるんです。その点は根本的に違う感じがしますね」

イ・ラン「私はメロディーを作るのが好きなわけじゃなくて、どうやって物語を伝えられるかが重要。同じ物語でも歌を通して表現すると、みんな耳を傾けてくれる。パンソリもかつての社会的弱者が自分たちの物語を伝えるために考えられたお話が多いんですよ。

私も世界的に見ればマイノリティーだから、パンソリみたいに物語を伝えていきたい。私がお金持ちならお金を讃える歌を歌うかもしれないけど、私の周りは貧乏な人が多いから」

折坂「社会的に自分と同じような立場にある人たちのことを代弁しているような気持ちはあるんですか?」

イ・ラン「代弁したくはないんだけど、自分の話をすれば、どこかに共感してくれる人はいるはずだとは思ってる。曲を書くときも最初は自分の話を元にしながら、次は友達の気持ちになって書く」

折坂「よくわかります。僕の場合は1曲のなかに自分のことだったり、特定の人のことが同居している感覚がある。自分のことを歌っていても、それが次第に他の誰かのことにもなっていくというか。歌うからにはより多くの人にわかってほしいけど、〈お前ら、こうだろ?〉と歌っても決して届かない。自分のなかから出てきた言葉で歌わないと、わかってもらえないと思うんです」

――冒頭で話された、イ・ランさんの歌を聴いたときに折坂さんが感じた感覚の話にも繋がってきますね。聴いているうちに自分が知っている人の顔が浮かんできたという。

折坂「そうそう、そういうことなんです」

イ・ラン「(今回の通訳である)アンちゃんのことを考えて曲を書いたこともあるんですよ。そうやって友達をテーマに曲を書いて、それを実際に聴いてもらって反応を楽しむ(笑)」

――みんなどうなふうに反応するんですか?

イ・ラン「少なくとも批判されたことはないかな(笑)」