言語やカルチャーの違いを超えて、音楽を通じてコミュニケートする――常日頃から巷ではそんな言葉が軽々しく使われているが、元Galileo Galilei、現Bird Bear Hare and Fish(以下BBHF)の尾崎雄貴と、米西海岸出身のバンド、ポップ・エトセトラ(POP ETC)のフロントマンであるクリストファー・チュウは、その本当の意味を知る、固い絆で結ばれたミュージシャンたちだ。

尾崎のたっての希望で、Galileo Galileiのサード・アルバム『ALARMS』(2013年)のプロダクションにクリスが携わったのは、いまから5年前のこと。以来、2014年発表のEP『See More Glass』にも彼が関わり、翌年のGalileo Galileiのツアーにポップ・エトセトラが同行するなどして、両者はコラボを重ねていく。そして今年は、BBHFのデビュー・アルバム『Moon Boots』をクリスが共同プロデュースする一方で、日本限定でリリースされたポップ・エトセトラの最新作『ハーフ』に尾崎が参加。海外配信されてきた楽曲や日本独自の書下ろし曲、さらにくるりやYEN TOWN BANDのカヴァーなどを収めた『ハーフ』において、尾崎は“We’ll Be OK”をクリスと共作し、あらためて音楽的対話を深めている。

そんな2人が先頃、ポップ・エトセトラの来日を機に東京で再会。出会いに遡って共に過ごしてきた時間を振り返りつつ、これからの計画も聞かせてくれた。

POP ETC 『ハーフ』 ソニー(2018)

 

クリスは作り手の心にある〈答え〉を引き出してくれる

――2人が初めて対面したときはどんなシチュエーションだったんですか?

尾崎雄貴(Bird Bear Hare and Fish)「わりと真面目な感じでしたね。会議室みたいな部屋で会って、ずらっと椅子が並んでいて、片側にクリスの関係者、反対側に僕らが座っていて。その前に僕らはポップ・エトセトラのライヴを観ていて、やっぱりいいなあと思い、アルバムをプロデュースしてほしいという話をしたんですよ。でも最初の打ち合わせはすごく距離を感じて、正直言って〈これじゃダメだな〉と思った(笑)。

ただ、最終的には〈プロデュースしてもいいかも〉という話で終わって、その後メールをやりとりしたんですけど、とにかく熱き想いをぶつけなければと思っていた僕は、すごく前のめりでしたね。〈日本と海外の音楽の違いを埋めたい!〉とか訴えて。そんな僕にクリスは、〈一回スタジオに入って音を出してみようよ。そこで初めていろいろわかるから〉と言ってくれました。実際その通りで、音楽的な共通言語が出てきて、すごくミュージシャンらしい形で距離を縮められたと思います」

クリストファー・チュウ(ポップ・エトセトラ)「ユウキはいつも、初めて会ったときにどれだけぎこちなかったかっていう話をするんだけど、ただでさえ初対面で緊張しているのに堅苦しいミーティングみたいな感じで、誰だって自然に会話できなかったと思うよ。その後Galileo Galileiがどんなバンドで、どんな人たちなのかわかってくると、僕も距離を縮められた気がして、かなり早い段階でポテンシャルを感じた。それに、たびたび日本を訪れているうちに僕が日本語を少しずつ覚えたことも助けになったしね。多くの時間を一緒に過ごして音楽的に理解し合っている僕らは、チームメイトとしてすごく自然な関係を維持しているよ」

――プロデューサーとしてのクリスのスタイルはどんな感じなんでしょう?

尾崎「基本的にはアドバイスをくれるというより、僕らが思っていることの大事な部分を彼が導いてくれるような会話を、たくさんしてくれている気がします。〈こうするべきだ〉みたいなことを言われた覚えがなくて。〈どうしたいの?〉っていうことを的確に引き出してくれる感じですね。〈答えはお前の中にあるのじゃ〉みたいなことが多いんですよ(笑)」

クリス「そう思ってくれて嬉しいよ(笑)。音楽を作るときは、自分の中から自然に湧き出るものを表現できるリラックスした環境に身を置くべきだし、プレッシャーに負けて自分を抑制してはいけないと思うんだ」

Galileo Galileiの2013年作『ALARMS』収録曲“サークルゲーム”。プロデュースはクリストファー・チュウ

――『ALARMS』のあとも幾度かコラボがありましたが、BBHFの『Moon Boots』ではふたたびクリスが共同プロデューサーを務めて、じっくり一緒に音楽を作る機会が巡ってきました。メンバーは重複していますが、Galileo Galileiとは違うバンドを相手にしているという意識はありましたか?

クリス「うん。会議室で堅苦しいミーティングをする必要はなかったけど(笑)、やっぱり違うバンドで……同じなんだけど違う、としか言いようがないな。とはいえ、以前からメンバーを知っているだけに彼らの成長を実感したし、共同プロデューサーとしての僕の立ち位置も変わった。『ALARMS』のときは、〈僕に新しい道を指し示してほしいんだな〉と感じたけど、BBHFでは各メンバーのパーソナリティーが強く現れていて、それを最高の形で提示する方法を探す感じだったね」

尾崎「BBHFは、僕のソロ・プロジェクトであるwarbearとほぼ同時に進行していたんですが、warbearは自分でプロデュースをしたので、こっちはクリスとやりたいと思っていたんです。彼と組むことで、これまでに何度もステップアップできたから。クリスとの経験を自分たち自身で消化する時間があってこそ、もう一回やれると思っていたんだけど、いまならクリスと一緒にまた新しい境地に行けるという予感があったんですよね。それに、彼と音楽を作るのはすごく楽しい。北海道の芸森スタジオという場所に約2週間泊まり込んでレコーディングして、楽しい思い出ばかり残っています。作業が終わったら呑んで、翌日は二日酔いでまた作業をして(笑)」

クリス「うん、本当に楽しかった。僕はこう、自分たちを隔離して作業をするのが好きなんだけど、そもそも周りにはどこにも行ける場所がないし、まだ雪が残っていて結構寒かったし、閉じ籠るしかなかった(笑)。寝食を共にしながら作ったアルバムだから、あらゆる意味でのコラボレーションであり、何もかもみんなで分かち合ったんだ。それって、音楽を作るうえで最高のやり方なんじゃないかな」

尾崎「クリスはレコーディング中でも散歩に行ったりするタイプだから、つまんないかなと思って少し心配していたんです。でも美味しいごはんが出るスタジオなので、それが良かった(笑)」

Bird Bear Hare and Fishの2018年作『Moon Boots』収録曲“ライカ”