歌声にサンバの魂が舞い降りた瞬間

 パワフルなオーラと歌声との鮮烈な印象から、一気にブラジリアン・ソウルのディーヴァと呼ばれるまでになったパウラ・リマ。先日7年ぶりのアルバムを日本先行リリース、さらに来日公演で歌声を届けてくれたが、その内容はサンバ一色。ステージでも自身のレパートリーの他、往年の名曲も織り交ぜたサンビスタのステージを披露してくれた。この動きをサンバへの転向、とするのは気が早いようだが、ちょっとした気まぐれでチャレンジした、というわけでもなさそうだ。

 「私は黒人家庭に生まれ育ったので、サンバは子供の頃からすごく身近だし、親しんで育ったわ。ティーンエイジャーの頃にファンクとか他の音楽に触れるようになって、そのスタイルで活動してきたけれど、2007年の『Samba Chic』ぐらいから自分の中に回帰思考が生まれてきたの。サンパウロにいるといろいろな情報や音楽があふれているのだけど、その中で暮らしていて、足下を見るとそこにサンバがあったの。自分の根底にあったのに忘れていたものだったのよ」

PAULA LIMA 『サンバの贈りもの』 Radar/Tupi(2013)

 そう、パウラの足下にはサンバがあり、それを見つめ直すことでさらなる成長を遂げた。それがどれほどかは、最新アルバムや先日の来日公演が証明している。ではそれほど確固とした下地があるのなら、サンバも簡単に歌えたか、というと、それもまた違うようだ。

 「いざ歌ってみると難しいことも思い知ったわ。今までは盛り上げることばかり考えていたのだけど、いまは歌詞の内容もすごく気になるようになったわ。自分は何を歌って何を伝えるのか。それを意識するの。それにサンバは音楽だけでなく、人生のスタイルそのもの。今の私はサンバと結婚したようなもの。サンバをしっかり抱きしめているわね」

 そんなパウラのサンバアルバム。ホームタウンであるサンパウロではなく、リオのサンバの中に飛びこんだ形になっている。

 「サンパウロとリオではやっぱりスウィング間が違うわね。だから自分からリオのサンビスタの中に入っていったわ。そのおかげで、今回もすごくいい絆を気づくことができたと思うの」

 サンバを歌う悦びを生き生きと話すパウラ。その姿はまぶしいほどだった。そこで愚問を承知で聞いてみた。貴女の中で、サンバは生きているのか?と。

 「もちろんよ。それもブラジルで今まで以上の存在感を持つようになってきていると思うわ。それに往年の素晴らしいアーティストはもちろん、今回すごく影響を受けたヘヴェラサォンのシャアンジ・ピラーレスのような若い才能もどんどん出てきているからね」

 パウラの歌声とこれからに大きな拍手を送りたい。