さざなみのような歌声が男の耳朶さえも染めてゆく

 左端から倉橋由美子著「暗い旅」、向田邦子著「父の詫び状」、武田百合子著「犬が星見た – ロシア旅行」……等々、創作・随筆の別を問わず単行本で所蔵している女性作家陣の棚は長らく新人の空席状態が続いていた。そこに姫野カオルコ著「ラブレター」が着席したのは1996年春のこと。新たな空席に同じ姫野の「昭和の犬」が鎮座するまでには5年の歳月が流れたが翌2014年、島根からの転校生的な自伝本がふいに登場し、棚の最後尾に躊躇なく立てられた。浜田真理子著「胸の小箱」、この好著と肩を並べられる一冊はいまだに見つからない。

浜田真理子 『LOUNGE ROSES – 浜田真理子の昭和歌謡』 コロムビア(2018)

 CD部門でも、わが音響球場内では浜田の不動の四番打者状態が長らく続き、今夏の新譜『NEXT TEARDROP』での快音も記憶に新しい。が、来たる晩秋発売のカヴァーアルバム『LOUNGE ROSES – 浜田真理子の昭和歌謡』の全11打席(11曲)から繰り出される感銘の飛距離がこれまた凄い。“東京ドドンパ娘”が連続盗塁をキメる級な快走性で魅せれば、“つぐない”はいぶし銀の浜田節、山場で聴かせる“夜霧よ今夜も有難う”は快哉を叫びながら歓喜の風船を飛ばすファンの顔が浮かぶ程だ。原田芳雄の十八番だった“横浜ホンキートンク・ブルース”は“ヘミングウェイ”を“中上健次”に替える箇所が大好きだったが……浜田版は“ヨコハマ・ホンキー・トンキー・ブルース”と原題&カタカナ表記も、巷間流布する定番歌詞も藤竜也の原詩に戻して歌う粋な計らいで収録を。次いで珠玉の“愛のさざなみ”とハマクラ作品への真理子トライが続く。やはり浜口作の“夕陽が泣いている”を聴くとなぜか、灯ともし頃にちびまる子が鼻歌する姿を連想したりして笑みが零れてしまうのだ。

 日々の芥を拭いたい夜に、浜田真理子を聴く習慣が身について久しい。正直に書くが、彼女のCDを聴き、ネット映像に見惚れていると、(この感情は)もう恋なのか!?なんぞと年甲斐もなく男の純情が桃色吐息する。(かもしれないな……)と、耳朶まで染めているじぶんに気づいたりする。そんな恋情をもはや打ち消せなくなるほどの決定打的名盤。タイトルも秀逸で完璧だ!

 


LIVE INFORMATION
〈文春トークライブ〉浜田真理子「夕暮れ時に」 Mariko 20th anniversary of debut
2018年11月17日(土)東京・赤坂 草月ホール
開演:18:00
https://www.hamadamariko.com/