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作りたかったのは、新しい時代の何かではなく、ただのロックンロール・アルバム

――その一方でいま聴いて、とても新鮮ですばらしい内容に感じられるのは、熟成にも似た時間の経過があるのではないかと思いました。

「そうだね、うんうん。うん、まさにそうだと思う。94年盤は当時に合っていた音楽だったのかもしれないね。90年代感が強いというか。でも、メンフィス盤はタイムレスな響きがあるよね。リアルなアルバムという気が、ぼくにはするんだ。6人の男たち……6人のミュージシャンがひとつの部屋に集まってプレイしているっていう感覚がある」

――トムとのレコーディングで、彼がいちばんこだわったことはなんでしょうか? また逆にあなたたちがいちばんこだわったこととは?

「トムは……本当にファンタスティックなプロデューサーだったよ。ものすごく正確なメモをつけていたんだ。それから、ミュージシャンひとりひとりとちゃんと向き合ってくれる人だったね。ぼくの声についてもものすごく励ましてくれた。アレンジも最高だったし、テイクのひとつひとつにもきちんと対処してくれる……人間としても素晴らしかったんだ」

――お蔵入りになってから、彼と話をしましたか?

「いや。アラン・マッギーがトムに(リリースしないと)伝えたんだ。そのときはとにかく悲しかったような気がするな。自分を見失ったような気がした。うん、見失ったような……」

――そうしたつらい経験もありましたが、いまとなってはどちらの作品も誇りを持っているんですよね?

「もちろん! 間違いなく、どちらも正統だと思うね。ただ、メンフィス盤のほうがピュアだと思う。そう……ピュアだね。メンフィスで録音した感じがちゃんと出ているから。ぼくたちがあの街に行ったのは、トムやマッスル・ショールズのメンバーとロック・アルバムを作りたかったからなんだ。新しい時代の何かを作りたいという気持ちはなかった。単にロックンロール・アルバムを作ろうとしていたんだ。そのことをあらためて思い出したよ」