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意地でもこのバンド名を掲げて活動したかった

――さて今回のアルバム『Reach For The Sky』は、Rayさん(ヴォーカル)と實成峻さん(ドラムス)が加わった現ラインナップとしては2作目となります。前作『To The Light』と同様に、Rayさんのハスキーでソウルフルな歌唱も楽曲にうまくフィットしていますが、改めて彼の加入に至った経緯を教えてもらえますか?

「2014年夏に前ヴォーカル(高谷”Annie”学)と前ドラマー(ルイス・セスト)が同時に辞めてしまったんですが、ちょうどその直前に知人に誘われてMSG(マイケル・シェンカー・グループ)のトリビュート・バンドでプレイしたんです。そうしたら、偶然にもRayも別のバンドで同じ日に出演していましてね。レインボーのカヴァー・バンドで歌っていた彼の歌唱が印象深かったので、〈あの声ならばバンドを再興できるのでは?〉と思い立ち、加入のオファーを出したものの、最初のうちRayは躊躇していました。何しろ、前ヴォーカルはアルバム・デビュー前から遡ること19年もBLINDMANに在籍していたので、そのイメージが強すぎたせいでしょうね。

そのため〈正式加入ではなく、ゲスト扱いだったら……〉とRayに当初言われましたが、僕自身は過去の曲を捨てたくなかったんです。確かにクリエイティヴな人間として、ゼロベースで新しい曲、新しい作品を作ることは大切かもしれません。でも、過去に書いた曲は僕にとっての宝物であり、子供にも等しい存在なんです。BLINDMANというバンド名を捨てることにメリットがあるとも思えなかったので。

それで話し合った末に、試しにセッションというかプロジェクト形態で何回か一緒にプレイして、その感触で続けるかどうかを判断しては?と提案したんです」

『Reach For The Sky』収録曲“Now or Never”

――なるほど。それで2015年に数回、〈PROJECT BLINDMAN〉名義でライヴしていたのですね。

「はい、それでPROJECT BLINDMANとして9本ライヴをこなしたら、幸いにもオーディエンスに受け入れてもらえました。おかげで彼も正式加入しようという気持ちに傾いたんでしょうね。

今になって思うと、BLINDMANにうまくマッチした人材が見つかってよかったなと思います。僕としては、バンド名を捨てるつもりは毛頭なかったし、意地でもこのバンド名を掲げて活動したかったので」

PROJECT BLINDMANの2015年のライヴ映像。演奏しているのはメジャー進出作となった2001年作『BLINDMAN』収録曲“The Way To The Hill”

 

多様なバックグラウンドを持つメンバーだからこそトライできた楽曲群

――『Reach For The Sky』は従来のBLINDMANらしい叙情味溢れるハードロック・ソングが詰まっている一方で、ヴェテランらしい緩急の妙というか、静と動のコントラストが際立つ印象を受けました。特にクリスタルズの“Da Doo Ron Ron”をカヴァー収録したのが目を惹きますが、その裏話を教えてもらえますか?

「今回のアルバム制作に当たり、〈リスナーが小休止を挟めるような曲を、そういえば一度も収録したことがなかったな〉と思ったんです。もちろんそれは捨て曲という意味ではなく、アルバム全体を俯瞰した時に、休憩という重要な役割を担う曲ですが。ひと昔前のロックのアルバムには、遊び心に溢れた曲が何かしら入っていましたよね。たとえば初期のヴァン・ヘイレンのように。

それで自分のアルバムにもそういう曲が入っていてもよいのでは、と思った際に普段の自分になかった要素とは何だろうかと考えたんです。その答えは、楽しくてハッピーなフィーリングを帯びた曲。しかも単に明るい曲だけじゃなく、きわめてシンプルに楽しめる曲です。

でも21世紀のこの時代、何の変哲もないシンプルな曲をイチから書き下ろしても、往年のスタンダードの名曲に並び立つのは絶対に無理だと思いました。ならば発想の転換というか、自分が好きなスタンダードの楽曲群の中から1曲カヴァーすればよいのでは?と思い立って、往年の音楽プロデューサー、フィル・スペクター関連作のコンピレーション盤からこの曲をセレクトし、他のメンバーに打診したら皆納得してくれましてね。最初は半信半疑だったようですが」

ヴァン・ヘイレンの82年作『Diver Down』収録曲“(Oh) Pretty Woman”。原曲はロイ・オービソンの65年のヒット曲

――野球に例えるならば、剛速球のストレートに対しての変化球、といったところでしょうか。7曲目のボサノヴァ風の小曲“Blue Moon”も、やはり小休止という役割を担う曲ですね。この曲ではバンド最年少の實成さんによる繊細なドラミングが印象的でした。

「本人はレコーディング中にだいぶ模索したようですが、僕のギターと戸田(達也)のベースをいざ重ねてみると、予想以上にいい曲になるという手応えを得ました。

實成はまだ20代の若手ですが、HM/HR一辺倒というタイプではなく、さまざまなジャンルの音楽を学んでいます。なおかつベーシストの戸田は、かつてソウルやファンク、果てはサルサまでプレイした経歴の持ち主です。

この“Blue Moon”はカヴァーではなく書き下ろしですが、多種多様なバックグラウンドを有するメンバーに恵まれたらこそトライする価値があった曲です。キーボーディストの松井(博樹)も含めて、今のメンバーでHR/HMしか知らないという人は誰もいないんじゃないでしょうか。当然ながら、BLINDMANのメンバー全員が揃えばHR/HMをプレイするし、全楽曲のコンポーザーでありプロデューサーの僕自身のルーツは、基本的にHR/HMなのですが」