Mikikiがいま、このタイミングで観てほしい出演陣を揃えたショウケース企画〈Mikiki Pit〉。その第6回が11月17日、東京・下北沢 BASEMENT BARにて開催されました。ayU tokiO、CAR10、Taiko Super Kicks、Potomelliという4組を迎えたこの日の模様を、編集部がレポート! 当日のムード素晴らしい演奏の数々ををパッキングし、ライヴ写真とともにお伝えいたします。

 

Potomelli

爽やかな晴天に恵まれた〈Mikiki Pit Vol. 6〉。三軒茶屋・クジラ荘が焼く、ホットドック・ソーセージのいい香りが立ち込めるなか、会場には続々とオーディエンスが集まってくる。この日のトップバッターは山中千尋や中森明菜などサポート仕事でも引っ張りだこなジャズ・ドラマー、桃井裕範が率いるロック・バンドのPotomelliだ。

演奏はほぼ定刻通りにスタート。オープナーは、初めてミュージック・ビデオになった楽曲であり、彼らの現状の代表曲と言える“S.O.S”。Twitter上でGotchが絶賛したことでも話題となったこのキャッチーな一曲で、会場の注目を一気に集める。続いては、幻想的なリフから始まるミディアム“A-ha”。サポート・メンバーを含めた4名の豊かなアンサンブルで、フロアのムードを高めていく。

ここで、「今日はトップバッターということで、これが終わったら呑めます(笑)」と、MCタイム。「Potomelliは先週ファースト・アルバムが出まして、テンション上がってます……これでも」と、淡々とした口調で桃井が話すと、オーディエンスからは静かに笑いが起きる。「自分がヴォーカルをやるなら絶対に熱唱したい。文化祭でルーズにサボってるような感じには絶対にしたくなかった」とMikikiのインタヴューでも語っていたが、桃井は歌っているときとトーク時のテンションにギャップがあるタイプだ。

そして、リリースされたばかりのセルフ・タイトルのファースト・アルバムより、“コーヒーが溢れた、君のこと考えてたら”を演奏。Potomelli印な叙情的でドリーミーな名バラードで桃井の歌唱を堪能していると、「アルバムが出たばかりで気が早いんですけど、新曲持ってきました」と、公の場では初お披露目となる新曲をパフォーマンス。早くも次作に向けて進みはじめている彼らの最新の姿を見せつける。

ラストは、「みんなが合唱してくれるくらい、この曲をアンセムにしたい」と言う最新シングル“ハロー”だ。歌い出しをギターの西田太一、ベースのザック・ クロクサルと3人でコーラスするこの曲は、まさにセットリストのラストにピッタリなナンバー。オーディエンスを心地良く揺らせていた。

 

Taiko Super Kicks

2番目に登場したのはTaiko Super Kicksだ。サイケデリックなジャムのようなイントロから、今年2月に発表した『Fragment』の収録曲“バネのように”で幕開け。タイトで無駄のないバンド・アンサンブルでタイコ流のミニマリズムを追求した同作から約半年、息の合った演奏はますます引き締まり、パワフルになっているように感じる。

「こんにちは。Taiko Super Kicksです」という伊藤暁里(ヴォーカル/ギター)の短いあいさつから、間髪入れずに“悪いこと”へ。大堀晃生の太いベースラインとストレンジなフレーズが耳を引く。表情を変えずに、静かに強い主張を発している――タイコのたたずまいと演奏は、まるでそんな感じだ。

そのままファースト・アルバム『Many Shapes』(2015年)に収められているサイケデリック・ナンバー“水”へ。後半、樺山太地のノイジーなギター・オーケストレーションの洪水がフロアを満たすと、突如演奏はトーンダウンし、伊藤の歌とリズム・ギターだけが取り残される。その緩急の差に翻弄されながらも、続けて“遅刻”が披露される。こばやしのぞみが鳴らすシェイカーの音が印象的だ。

MCではライヴ当日にリリースした7インチ・シングル『感性の網目/bones』50名限定のリリース・パーティーについてアナウンス。続く“釘が抜けたなら”は『Many Shapes』からの楽曲だ。食い気味のフィルインに驚かされつつ、どこかペイヴメント・ライクなメロディーがいかにもノスタルジックで胸を打つ。

最後は、新曲の“感性の網目”。アクチュアルなテーマ性をはらんだリリックと、ドラムの独特のリズム・パターンが見事だが、〈コントロールされたルーズさ〉とでも言うべきアンサンブルが心地良い。バンドにとっての新たな代表曲を披露して、タイコのステージは終了した。

 

ayU tokiO

新作『遊撃手』を6月にリリースして以来、精力的なライヴ活動を続けているayU tokiO。主催イヴェント〈new solution 6〉では、総勢12人(!)で圧巻の演奏を聴かせていたが、今回は猪爪東風(ヴォーカル/ギター)を中心に、やなぎさわまちこ(シンセサイザー/コーラス)、すばらしかの加藤寛之(ベース)、原“GEN”秀樹(ドラムス)、そして森田文哉(サックス/ミュージカル・ソー)の5人での出演だ。

それゆえに、この日のayU tokiOの演奏は、いつにも増してロック。『遊撃手』の楽曲のすぐれたメロディーや練り込まれたアレンジの妙を生で味わえたのが〈new solution 6〉だとしたら、一方でアルバムの生々しく荒々しい、〈raw〉な側面を体現したのが〈Mikiki Pit〉での演奏だと言えるかもしれない。

開演前に武末亮(〈new solution 6〉にもギタリストとして出演していた)が「森田の、あのピッチが合ってないサックスがいいんだよね」と言っていて、本当にその通りだと思ったのだが、1曲目の“やどなし”は、この日もどこか調子はずれなサックスに導かれるイントロとともに披露。前述のとおり森田はミュージカル・ソー(のこぎり)も担当するのだが、のこぎり奏者がいるバンドというのもかなり珍しい。まるでチープな効果音のような、テルミンにも似たユーモラスな揺れる音色が、『遊撃手』の不思議な音世界には実にマッチする。

続く“hi-beam”は、バス・ドラムやタムが不思議なタイミングで、前のめりに鳴らされる楽曲。アルバムでは猪爪自身がプログラミングで編みあげたというビートを、原が人力で再解釈していく。後半のギター・ソロでは、猪爪自作のアンプから強烈な主張を持ったトーンがフロアに鳴り響き、観客を圧倒。“晴耕雨読”でのブルージーなソロもどんどん盛り上がりを見せ、加藤の力強いベースもそれに追随する。〈ロックなayU tokiO〉のピークを記録したのがインストゥルメンタル“晴耕雨読”だっただろう。

『遊撃手』という作品のなかでもハイライトと言っていい“あひる”は、聴く者の胸をぎゅっと締め付けるようなメロディーが見事で、アルバムやライヴや聴くたびに掛け値なしの名曲だと感じ入る。感傷的な心象風景を繊細に描写した詞と、切々とした猪爪の歌唱がメロディーとあいまって、感動的なムードを呼び込む。思わず涙腺が緩むようなパフォーマンスだ。最後は“大ばか”でしっとりと、だが軽快に終演。

ところでこの日、やなぎさわが弾いていたのは、最近導入したというARP製のアナログ・シンセサイザー。アナログの温かみを感じさせるが、モノフォニックならではの強い主張をもった太い音色が印象的で、サウンドに厚みをもたらしていた。そのためピアノの役割が重要な名曲“あさがお”が披露されなかったのは残念だったが、ayU tokiOとプレイヤー・やなぎさわの新しい側面も感じさせる素晴らしい演奏だった。

 

CAR10

この日トリを務めたのは、栃木・足利を拠点に活動するパンク・トリオ、CAR10。彼らの作品をリリースしているレーベル、KiliKiliVillaの主宰・安孫子真哉を筆頭に、フロア前方にオーディエンスが集まっていく様子に、バンドの支持の高さが窺える。

1曲目は、レゲエ調の新曲。心地良いバックビートに乗って、ヴォーカル/ベースの川田晋也が艶っぽく歌い上げる。まるで、ダラダラに伸びたTシャツの襟もとから、ふと垣間見える、ゴツッとした鎖骨のような、男の色香が漂う歌唱だ。続けざまに、最新作『CAR10』(2017年)収録曲のダンサブルなロック・チューン“Night Town”を演奏。フロアから〈ウォー!〉と野太い歓声が上がった。

さらに、ライヴ会場限定シングルとして昨年リリースされ、現在は入手困難になっているものの、すでにファンの間では〈激名曲〉として人気を博す新曲“ONE VAN”で、BASEMENT BARの昂揚感はピークに。一聴、誰もがくるりのアレを彷彿してしまう、甘酢っぱいギター・リフとパワフルなドラムが牽引する、アンセミックな楽曲だ。また、川田が情感たっぷりになぞるメロディー・ラインも数多くのフックがあり、特にコーラス部分での爽やかな開放感といったら! 思わず目頭が熱くなってしまった。

MCで、この日がayU tokiOと久しぶりの対バンになったことについての感慨を語り、その後は〈フフーフフー〉というコーラスが愉しい新曲、次いで“魔法の一言”を披露。後者は、この日の〈Mikiki Pit〉に合わせて川田とHi,how are you?の原田晃行が行った対談で、「佐野元春の曲を土台にした」と言及されていた楽曲であり、記事をふまえて久しぶりに演奏してくれた心意気がニクイ。

最後は、『CAR10』収録の人気曲“マチフェス”でフィニッシュ。彼らの地元近辺にあたる群馬・桐生で、同世代の仲間たちと開催しているフェスをタイトルに持つ、CAR10にとっても思い入れの深い楽曲だ。〈早くこっちにおいでよ〉と朗らかに呼びかけるリリックが、最後まで残った観客ひとりひとりの胸に刺さっていく。そのさまは少なからず感動的であり、個性豊かな4組を揃えた〈Mikiki Pit Vol. 6〉が、一つのストーリーとして綴じられていく光景だった。