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それぞれ違う形の愛

 しかし、そんなゴタゴタもすぐに吹き飛ばし、2017年にはザラ・ラーソンの清らかな歌声と、切ないストリングスがロマンティックに交わるハウス・トラック“Symphony”を英米でヒットさせ、不安視するファンの声をあっさり払拭。さらに勢いは加速し、裏方/表方としてクリスティーナ・アギレラやショーン・メンデスなどの作品で名前を見る機会が急増しているジュリア・マイケルズとのメロウな“I Miss You”、ユニークな加工ヴォイスをアクセントに失恋から立ち直る様子をデミ・ロバートが力強く歌った“Solo”(京都で撮影した日本版のMVもちょっとしたバズに!)、マリーナ・アンド・ザ・ダイモンズとギネス級のヒット“Despacito”でお馴染みのルイス・フォンシが客演したレゲトン・ポップ“Baby”……と、曲調もゲストもヴァエティーが増した強力シングルを連発し、よりエクレクティックな方向性を強化していった。

 

CLEAN BANDIT What Is Love? East West UK/ワーナー(2018)

 こうしてようやく日の目を見るのが、待望のセカンド・アルバム『What Is Love?』だ。グレイスは今作について次のようにコメントしている。

 「愛のさまざまな種類の段階を見通しているの。3年かけて作ったんだけど、その間に私たちみんな、それぞれ違う形の愛を経験したわ。なかには苦しい失恋をしたメンバーもいる。なぜか多様な愛の形はすでに歌で作られているの。兄弟愛、家族愛、ロマンティックな愛、消耗するだけの狂愛、不信へと形を変えた苦しみの愛、そして“Rockabye”にも描かれている無条件の母性愛とかね。困難な時でさえ、愛のために、お互いのために、私たちがどんな犠牲をみずから払うのかを探求しながら今回のアルバムの制作に取り組んだわ」。

 先行カット以外のアルバム収録曲に目を向けてみても、クラシック音楽やUKベース・ミュージックの色合いは薄まり、グレイスの言う〈愛〉をテーマにした影響なのか、レゲエ由来のリズムにラテン・ポップや現行R&Bの要素をミックスしたような、マイルドでエモーショナルなナンバーが並んでいることに気付かされる。特に印象的なのはスパニッシュ・ギターの音色で、郷愁を誘うエリー・ゴールディング客演曲“Mama”、カイルとビッグ・ボーイがムーディーに歌とラップを披露した都会的な“Out At Night”、 クレイグ・デヴィッドの甘い歌い口とカーステン・ジョイ(クリーン・バンディットの現ライヴ・メンバー)の伸びやかなヴォーカルが良好なマッチングを見せる“We Were Just Kids”での演出効果は絶大だ。

 この他にもトーヴ・スティルケやステフロン・ドン、リタ・オラにチャーリーXCXなど、クレジットを眺めただけでワクワクするようなゲストを揃え、ファースト・アルバムよりも確実に豪華な内容と言えるだろう。サウンドの感触こそ変化したように思えるものの、グループの芯となる多様なエレメントを許容するハイブリッド感覚や、情緒に溢れたメロディーは損なわれておらず、ミュージシャンシップの高さをまざまざと見せつけられた思いだ。

クリーン・バンディットの2014年作『New Eyes』(East West UK)

 

『What Is Love?』に参加したアーティストの作品。