Barry Feinstein

BOB DYLAN
『血の轍』へ至る轍のすべてを公開したブートレッグ・シリーズ最新弾

 91年の『The Bootleg Series Volumes 1–3(Rare & Unreleased)1961–1991』以来、ボブ・ディランの未発表素材を丹念に発掘し、マニアックな愛情を込めて編集し続けている〈ブートレッグ・シリーズ〉。昨年の『The Bootleg Series Vol.13: Trouble No More 1979-1981』はキリスト教時代を総括したものだったが、このたび登場した最新作『More Blood, More Tracks: The Bootleg Series Vol.14』は、商業的にも芸術的にも最大級の評価を獲得した『Blood On The Tracks』(75年)の舞台裏を緻密に記録した注目すべき音源集となっている。

BOB DYLAN More Blood, More Tracks The Bootleg Series Vol. 14 Legacy/ソニー(2018)

 その『Blood On The Tracks』はアサイラムから古巣コロムビアに出戻って最初のアルバムであり、前作『Planet Waves』に続いて2度目の全米No.1に輝いた、キャリアを振り返るうえでの最重要作のひとつ。もともと同作は74年9月にNYで行った4日間のセッションを元に完成され、11月リリースの予定でテスト・プレス段階まで進んでいたものの、ディラン自身の意向で発売を一旦キャンセル、同年末にミネアポリスで“Tangled Up In Blue”など5曲を再録することでようやく完成した労作でもあったのだ。今回の『More Blood, More Tracks: The Bootleg Series Vol.14』では、そこに至るまでのプロセスも含め、レコーディング・セッションの全貌が明らかにされている。

 これまでもNYセッションの模様は編集盤での蔵出しやテスト・プレス盤からの流出という公式/非公式な形で世に出てはいたが、それらはいずれも録音後にピッチを上げたヴァージョンだった。今回の〈スタンダード・エディション〉はオリジナルの10曲すべてをNYセッションから録音時の状態で収録し、一度はディラン自身も完成と判断したアルバムのプロトタイプをリアルに伝える内容になっている(“Meet Me In The Morning”以外はすべて未発表)。さらに限定盤の〈デラックス・エディション〉は、リハーサルやアウトテイクも含めたNYセッションの全貌とミネアポリス・セッションをリミックスした5曲を6CDに渡って伝える膨大な記録資料となっていて、こちらは当然コアなファン向けではあるものの、迷いを垣間見せながら多彩なアレンジや唱法が試される様子も楽しい〈音のドキュメンタリー〉として興味深い内容と言えるだろう。