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中島みゆき 『中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐』 何度も繰り返し浸りたい気持ちに駆られる、心地いい緊張感

中島みゆき 『中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐』 何度も繰り返し浸りたい気持ちに駆られる、心地いい緊張感

何度も繰り返し浸りたい気持ちに駆られる、心地いい緊張感

中島みゆきの最新ライヴ・アルバム『中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐』がリリースされる。2007年の〈歌旅〉、2012年~13年の〈縁会〉、2015~16年の〈一会〉という3つのツアーからの楽曲で構成された、いわばベスト盤的な作りとなっている。聞けば、携帯機器やカーステなど自分の好きな場所や好きな時に、みゆき楽曲を楽しみたいというリスナーのリクエストがあって生まれた企画らしく、コアなファンからすればコンサートのハイライトをコンパクトにまとめたライトな作品と映るかもしれない。

でもそうやって紹介するのを躊躇ってしまうような世界がここにはある。各駅停車の気楽さをよしとしない空気が流れているというべきか、アルバム全体にピンと張り詰めた見えない糸がそうさせるのである。そんな書き方をするといささか息苦しさを覚えるかもしれないが、優れたライヴに特有の、この心地いい緊張感は何物にも代えがたい魅力があって、きっと何度も繰り返し浸りたい気持ちに駆られてしまうに違いない。

中島みゆき 中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐ YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS(2018)

それにしても、音楽の器の大きさをこれほどまでに明確に証明してみせる歌もそうはないだろう。例えば“糸”、あるいは“時代”。どの年代のファンにとってもかけがえのない存在となっているバラード・ナンバーであり、前者はBank Bandや福山雅治、後者は薬師丸ひろ子の歌唱版でも知られる、あまりに有名なスタンダード・ナンバーである。オリジナルこそ最高だと言ってしまうのはあまりにも浅はかだけど、ここでの彼女の歌声には、ガラスの荒れ地を裸足で突っ走ってきた人だけに宿る温かさがあり、他のどのヴァージョンにも感じられない霊気のようなものを感じ取れることができる。魂が乗せられた大きな手のひらが見えてくる歌なのである。

これらを包み込んでいる明るさや柔らかさは、怨念が滴るダークな恋愛ソングとの対比において、より度合いを増しているところもあるわけだが、どちらのライヴ・テイクも自然な輝きに包まれており実に心に優しく、聴き手に自分の存在を受け入れられたと思わせずにはいられなくさせる。と同時に、どんなに時代の波を被ろうともけっして錆びついたりしない頑強さをも感じさせるなど、けっして他の誰もたどり着けない境地がさりげなく登場したりするのだから、このアルバムはやはりさらりと聴き流すことなんて出来やしないのだ。

ライヴ盤ならではの聴きどころをつまんでいくと、“ララバイSINGER~アザミ嬢のララバイ”が喜ばれるのではないかと思う。これは彼女の記念すべきデビュー曲とその曲へのオマージュを込めた2006年発表の楽曲をつなげたメドレーだが、泣きたい気持ちをゆっくり静める効果を持った穏やかな表情の歌唱がとにかく絶品で、おとなの子守歌シンガーとしての本領発揮的なパフォーマンスと言ってしまいたい。

それから、吉田拓郎の“唇をかみしめて”カヴァーも聴き逃せない。武田鉄矢が原作、脚本、主演を務め、シリーズ化もされた映画「刑事物語」の主題歌として書き下ろされたこの曲。拓郎のふるさとの言葉である広島弁の歌詞も有名な1982年のヒット・ソングだが、みゆきヴァージョンはというと、琴の音色をフィーチャーするなど和テイストによるサウンド・アレンジを施しているのが特徴で、しっとりした風情を湛えた歌いっぷりは、シアトリカルな音楽会〈夜会〉における彼女を連想させたりもする。

〈縁会〉でひさびさに披露されて話題となった“世情”はどうであろうか。「3年B組金八先生」の第2シリーズのクライマックス回とされる第24話〈卒業式前の暴力(2)〉にて、学校に籠城していた加藤優と松浦悟が強硬突入した警官たちに連行される場面に使われ、伝説となったあの曲である。往年のイタリア映画「刑事」の主題歌“死ぬほど愛して”のように聴く者の胸を狂おしく締め付けずにおかないこの名曲を、ここでの彼女はどうしようもなく熱かった遠き日々を慈しむようにして丹念に言葉を紡ぎながら歌っている。その静かな迫力は、オリジナルとはまた別種の強い印象を残すだろう。

一方、“夜行”では噛みつくような歌声を披露し、獰猛なパフォーマーとしての顔を浮かび上がらせるみゆきさん。いつだって凶暴な武器を隠し持った表現者であることを教えてくれるこのヤバいライヴ・テイクは、錆びるより燃え尽きたい、といったニール・ヤングのキャッチ・フレーズを思わず思い起こしてしまったほど。激流のごとき情熱が迸っている“愛だけを残せ”など、時にエモーショナルで、時に軽やかだったりするまるで生き物のような曲たちが中島みゆきというシンガーをずっとずっと遠い地平へと連れていく。そんな様子をただただじっと眺めているほかない状態に陥ってしまうこの12曲入りライヴ・アルバム。やっぱりすんなりと聴き流すことなんてできやしないんだ。

 

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