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ポップ・ミュージックの構造を理論的に解説するマスタークラスがアルバムに!

 ドキュメンタリー映画『黙ってピアノを弾いてくれ』では、付き合ったらちょっと面倒だなと思わせる皮肉のきいた挑発的な言動の数々がある反面、起伏にとんだ感情表現やパフォーマンスで人間味のある愛すべきキャラクターも描かれていた希代のエンターティナー、チリー・ゴンザレス。そんな彼が『Solo Piano III』に続きリリースしたのは、ユニーク極まりないピアノ・カヴァー集だ。

CHILLY GONZALES Other People's Pieces GENTLE THREAT/BEAT(2018)

 これはウェブ上で公開している、様々なポップ・ミュージックの構造を理論的に解説する〈Pop Music Masterclass〉と題したシリーズがあり、そのアルバム化といえるもの。トップを飾るのは盟友ダフト・パンクで、《Around The World》や《Da Funk》などの印象的なフレーズをリリカルなピアノで美しく描くメドレーと、声や他の楽器も加えて《Something Around Us》を披露。続くウィーザーも同様で、メドレーでは《Undone - The Sweater Song》、《Buddy Holly》をウェットに響かせ、《Damage In Your Heart》を同じく声などを加えたゴンザレス・ヴァージョンとして聴かせる。このような流れでドレイク、ラナ・デル・レイ、ビーチ・ハウスの楽曲を繊細なタッチでインストゥルメンタル化。そして最も風変りで興味を惹かれるのが最後を締めるラップ・メドレーだ。僅か2分ほどの内容だが、前半にドクター・ドレ《Still Dre》とカニエ・ウェスト《Heard 'Em Say》が登場し、後半は2パック《California Love》をベースラインに敷き、その上をウー・タン・クラン《C.R.A.E.M.》のメロディが流れていく構成にはハッとさせられる。そもそもヒップホップをピアノ・カヴァーする発想自体が驚きだが、このアレンジには恐れ入る。ボーナストラックとして、マイナー音階でクリスマス・ソングをカヴァーしたメドレーも控えており、綺麗なピアノの音色に隠れたコミカルさが最高で、エンターティナー=ゴンザレスの真骨頂といえる仕掛け満載の仕上がりだ。