COLUMN

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『Love In The Time Of Lexapro』 盲目的な喜びでも画一的な拒絶でもないアヴァン・ポップネス

Photo by Atiba Jefferson

盲目的な喜びでも画一的な拒絶でもないアヴァン・ポップネス

 ジェイムス・ブレイクやアノーニらを引き入れ、実験的ながらもヴォーカルを前面に出した作風で歴史的傑作との呼び声も高い『Age Of』、またバンド・セットで来日したことも記憶に新しい稀代の電子音楽家ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)。早くもリリースされた新作EPは『抗鬱薬時代の愛』と題され、引き続きミックスでジェイムス・ブレイクが関わっている。

ONEOHTRIX POINT NEVER Love In The Time Of Lexapro Warp Records/BEAT(2018)

 今年の日本公演で披露されていた表題曲《Love In The Time Of Lexapro》はシンプルなメロディが印象的で、どこまでも美しいハーモニーとゆったりとしたリズムが繰り返されていく。アレックス・Gがヴォーカルで参加した《Babylon》ではメランコリックな歌声にアコースティック・ギターとエレクトロニクスが伴奏する。なんの変哲も無いフォーク・ソングのようでありながら、ミニマルな弾き語りは終盤で音響の襞を強調することへと様変わりする。

 最も異様なのはやはり坂本龍一がリミックスを手がけたことでも話題の《Last Known Image Of A Song》だろう。原曲を素材に全く別の風景が描かれている。静謐な空間に金属的なノイズが散りばめられ、トイピアノのような音が点描的なフレーズを紡ぎ出し、うねるようなシンセ・サウンドが柔らかに鳴り響く。他の楽曲が繰り返しを特徴とするのに対して、ここには周期的なものや同期的なものから溢れ出るアンフォルムなサウンドがある。

 オリジナル盤のアルバム・ジャケットにはクリスチャン・ラッセンの絵画があしらわれている。ラッセンの絵画はバブル崩壊前後の躁状態の日本を席巻していた。芸術作品ではなく市場に流通する商品として。それを批判することは容易いが、あらためていま問い直すことは一筋縄ではいかない。煌びやかで多幸感溢れるラッセンの絵画を、盲目的な喜びでも画一的な拒絶でもなく批評するという所作は、アヴァン・ポップなOPNの音楽にもどこか似ているように思う。

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