INTERVIEW

峰厚介×土岐英史×片倉真由子×塩田哲嗣――4人のジャズ・ミュージシャンが語る、岡本太郎とジャズの意外な関係性

(左から)片倉真由子、土岐英史、塩田哲嗣、峰厚介
 

〈70年代に日本のジャズが持っていた熱いスピリットを現代に受け継ぐ〉ことをコンセプトに、2018年10月に船出したジャズ・レーベル〈Days of Delight〉。レーベルのコンセプトについては、先に掲載したファウンダー/プロデューサーの平野暁臣へのインタヴューをご参照いただきたいが、10月17日にリリースされたレーベル第一弾作――アルト・サックスのレジェンドである土岐英史の新作『Black Eyes』と、コンピレーション『Days of Delight―疾走―』の2作も好評で、順調なスタートを切っている。

そして去る9月25日、レーベルのローンチを間近に控えて〈Days of Delight〉主催のシークレット・ライヴ〈Days of Delight Atelier Concert〉が行われた。会場は東京・南青山の岡本太郎記念館内の、普段は展示用に一部公開されている岡本太郎のアトリエ。当時のままに残され、往時の気配をいまに伝えるこの〈岡本芸術の聖地〉に、土岐英史、来年1月23日(水)に〈Days of Delight〉から新作がリリースされることが先日アナウンスされた峰厚介(サックス)、片倉真由子(ピアノ)、そしてレーベルのサウンド・プロデューサーでありベーシストの塩田哲嗣の4名が集結。岡本作品の数々と20名弱のゲストが見守るなか、緊張感を保った演奏が約40分にわたって披露された。

そのライヴの模様を記録したダイジェスト映像がアップされたタイミングで、ここでは演奏直後に出演者4名+平野へ行ったミニ・インタヴューをお送りしよう。ライヴの率直な感想と、この特別な芸術空間とジャズとの関係性について伺った興味深いテキストとなっている。

★参考記事:岡本太郎 × ジャズ!? タワレコによるジャズ・レーベルが始動、その発起人・平野暁臣を直撃

〈Days of Delight Atelier Concert〉ダイジェスト映像
 

空間に魂がある

――みなさん、この空間での演奏はいかがでしたか?

土岐英史「最初に太郎さんのアトリエで演奏するって聞いたときは、正直〈えっ!?〉ってビックリしたけど、今日実際にやってみたら、意外に音が良いので驚きました。普段演奏している場所とは空気がまったく違うでしょう? でも、演奏していてすごく楽しかったんですよ。またやりたいなあ」

峰厚介「ぼくはアトリエに入ってすぐに、置いてあるピアノをちょろちょろっと弾いてみたんだけど、響きの感じがすごく良かった。だからライヴもきっと良い音になるだろうと楽しみにしていたんだけど、案の定、自分の思っていた通りの音が出たので、演奏していてじつに気持ちよかった。なんでだろうね?」

平野暁臣「塩田さんを初めてここに案内したとき、アトリエに入った瞬間、〈おおっ?〉って眼を輝かせて、パンパン手を叩きはじめたんですよ。グルグル歩き回りながら(笑)。で、〈ここはいい! 録音に抜群に適してますよ。スタジオみたいだ〉って言うんです。アトリエと音の関係なんて考えたこともなかったから、びっくりでした」

片倉真由子「塩田さんらしい!(笑)」

平野「その一言が引き金になって、この企画が生まれたんです。この特別な場所で演奏することで、なにか化学反応が起こるかもしれない。それを映像に記録しよう。ライヴ・レコーディングの水準で録音しようってね。今回ベーシストとしても参加した塩田さんは、〈Days of Delight〉の音作りを一手に引き受けてくれているエンジニアですから」

ライヴの司会進行は平野が担当
 

塩田哲嗣「すぐれた音楽スタジオもそうですが、〈空間に魂がある〉という言い方をすることがあるんです。太郎さんのアトリエもまさしくそうで、最初に入ったときに、音楽で培われたスタジオと同じような空気を感じました。それはもう〈ここで音楽をやってたんじゃないの?〉っていうくらいにね」

――その実感がライヴのアイデアに繋がっていった。

塩田「そうです。太郎さんは絵を描くのに適した光が入るように、といったようなことを考えてここを作ったんだろうけど、もしかしたら、絵を描くのに適した空間と、音を出すのに適した空間って、似ているのかもしれませんね。プロフェッショナルな観点からみても、ミーハーな観点からみても、演奏にすごく向いていると感じました。実際やっていても楽なんですよ。みなさんの〈そのままの音〉が出ているし。だからもう機材だけ持ち込めばいい状況だったんです」

――今日の模様を含め、今後〈Days of Delight Atelier Concert〉が映像でリリースされていくとのことで。

平野「多くの人に観てもらうためにも、この企画はシリーズ化したいと考えていて、すべてYouTubeでご覧いただけるようにします。映像は若い世代に訴求するメディアですからね。〈Days of Delight〉は、演奏内容とともにアートワークや音の質感にこだわっているんですが、同じように映像も重視しています。ジャズに馴染みの薄い若い世代とコンタクトするためです」

 

岡本太郎のピアノの魅力

――今日の演奏についてお訊きします。トップバッターの片倉さんは太郎さん本人の私物であるピアノを弾かれたわけですが、いかがでしたか?

片倉「私はずっと太郎さんのファンだったんです。アメリカにいたときも、太郎さんの言葉にどれほど勇気づけられたことか。まさかこんな機会をいただけるなんて夢にも思わなかったし、太郎さんのピアノを弾かせてもらえるなんて信じられなくて」

平野「とはいえ、古いし、アップライトだし。こちらとしては、なんか申し訳なくて……」

片倉「とんでもないです! 私、あのピアノ、大好き! すごくジャズに向いているピアノだと思いました。もちろんコンサート・ホールとかのピアノは素晴らしいけれど、このピアノには別の魅力があるんですよ。なんか、あったかいし。弾かせていただいて、とても幸せでした」

――太郎さんが亡くなられてからあのピアノを弾いたのは、今回の片倉さんが初めてだそうですね。

平野「じつは30年以上だれも触っていなかったので、まともに音が出ない状態だったんです。それを最近になって修復したんですよ。きちんと調律もして、こうしてお客さんにちゃんと聴いていただくのは今日が初めてです。あのピアノを最初に弾くのは片倉さんって決めてたし」

片倉「ありがとうございます。でも、うまく言えないけど、なんかヘンな感じだったなあ。いい意味で場が張り詰めているのがわかりました。緊張感みたいなのが後ろから(片倉は観客に背を向ける形で演奏)ブワー!って」

――ソロ・ピアノで2曲演奏されましたが、1曲目はオリジナルですか?

片倉「今日のために作った曲です。平野さんから〈太郎をトリビュートする曲を書いてほしい〉と言われて」

平野「どんなことを考えながら曲づくりをはじめたの?」

片倉「私、太郎さんとともに、(太郎の)生涯のパートナーだった(岡本)敏子さんのことが大好きなんです。太郎さんと敏子さん、この場所で暮らしたふたりの姿を思い浮かべていたら、冒頭のメロディーがまず浮かんで。そこから黙々と1~2日で作りました。タイトルは“Toshiko”です」

平野「いままでのオリジナル曲とは全然テイストがちがう。〈現代音楽みたい〉と言っている人もいたし」

片倉「たしかに違いますね。でも、なぜああいうものが出てきたのか、自分でもまだわからないんです」

――とても興味深いお話ですね。では、2曲目は?

片倉「“Theme for Ernie”という大好きな曲です。作曲したのはフレッド・レイシーという人なんですが、ジョン・コルトレーンの演奏が有名なんですけど、ソロではときどきやっています」

――続いて土岐さんが登場され、デュオの演奏がはじまりました。1曲目は〈Days of Delight〉からリリースされた土岐さんのニュー・アルバム『Black Eyes』のタイトルチューン。この記念館で太郎さんの芸術に触れるなかで出来た曲だと聞きましたが……?

土岐「具体的ななにかを思い浮かべて作ったわけではないんですが、何度かこの記念館を訪れているうちに、ある日ポッと出てきたんです。最初は〈Eyes〉だけだったんだけど、なんかしっくりこないな、と思っていたら〈Black〉が浮かんで」

「ニュー・アルバムの音源を聴かせてもらったけど、いいですよ。太郎さんが描く顔は、眼が空洞、黒いイメージがある。それでそういうタイトルをつけたんだろうな、と思った」

土岐英史の2018年作『Black Eyes』ダイジェスト映像
 

平野「初めてこの曲を聴いたときの感動を、ぼくは忘れられません。少し前に土岐バンドのメンバーが揃ってここに遊びにきたんです。目と鼻の先にある〈Body & Soul〉でライヴのある日で、本番直前までここでみんなで喋ってたんですよ。そのままぼくも(ライヴを)観に行ったんだけど、アンコールで突然土岐さんが〈岡本太郎記念館に行って出来た曲を、これから初めて演奏します〉って。いきなりだったからすごく驚いたし、あまりにいい曲だったのでメチャクチャ感動して」

「そんなの聞いてないよ、って話だよね(笑)」

平野「そうですよ。だって直前まで一緒にいたのに何も言われてないんだから(笑)。でも嬉しかったな」

土岐「もっとも、メッセージみたいなものがあるわけじゃないんです。絵画などと違って、音楽は具体的なイメージを持って作るものじゃない。聴いている人が自由に解釈すればいいし、そうすべきものだと思う」

平野「“Black Eyes”を聴くと、ぼくは岡本太郎の孤独、覚悟、決意みたいなものを感じます。もちろん感じるものはそれぞれで違うでしょうし、違って当然だと思います。芸術ってそういうものですから」

――2曲目は土岐さんの“After Dark”ですね?

土岐「平野さんのリクエストで」

平野「なにしろ日本ジャズ史に残る名曲ですからね。片倉さんとのコンビネーションがまたいいんです」

迷惑なおっさんツートップ

――続いて峰さんがソロで演奏されましたが、あれはすべて即興だったんでしょうか?

「そうです。100%即興です」

――吹きはじめるときは、どんなことを考えているんですか?

「片倉さんの1曲目のソロ(のフレーズ)が少し頭に残っていたような気がするな。そのあとは、つまり最初のモチーフの先は、なるようになるというか、なるようにしかならないっていうか……」

一同:(笑)

平野「純度100%の〈TARO空間〉に包まれていたわけじゃないですか。たとえ意識はしていなくとも、目で見える映像は確実に脳に送られています。この状況って、演奏になにか作用したと思われます?」

「(アトリエにある太郎作品の)赤とかグリーンとか黄色とか黒とか……そういった色のコントラストかな。もちろんずっとそれを考えながら吹いているわけじゃないけれど、潜在的には意識のなかにあったかもしれない。まあもっとも、フリー・インプロヴィゼーションは次々に意識が変わっていっちゃうからね」

土岐「狭くて明るい空間にお客さんがいるっていうのは、普通はやりにくいんですよ。顔が見えるとイヤなんです。でも不思議だったのは、ここは全然やりにくくなかったこと。差し込んでくる自然光の感じもいいし。ここだったら、逆に、暗くするほうがイヤかな」

塩田「あの磨りガラスがまたいいんですよ。ガラスって普通は反射しちゃって、シャバシャバした音になっちゃうんだけど、それが全然なくて」

土岐「アイデアが出にくい場所と出やすい場所ってのがあるけど、ここは間違いなく出やすい場所だよね」

――2曲目は峰さんのオリジナルですね。

「“I Remember Goko”という昔の曲です」

塩田「ホントいい曲ですよね」

――そして最後は塩田さんを含めた全員で演奏されました。

塩田「ぼくが書いた“Minor Blues”というシンプルなブルースです」

平野「迫力あったなあ。峰さんと土岐さんはいわば日本のツートップ。そのふたりが並んでいたんだから」

片倉「今日は私の母も観に来ていたんですが、並んでいるおふたりの横顔を見て感動したって言ってました。まるで修行僧のようだったって」

平野「峰さんと土岐さんが並んで演奏するところなんて、そう簡単に観られませんからね。貴重な経験です」

「そんなことないよ。名古屋とかでもしょっちゅうやってるし」

片倉「それはただの呑み会でしょ?(笑)」

土岐「ぼくらは迷惑なおっさんツートップだからね」

一同:(笑)

演奏終了後、平野を囲んで記念撮影

 


SETLIST

2018年9月25日〈Days of Delight Atelier Concert〉
1. 片倉真由子ソロ“Toshiko”
2. 片倉真由子ソロ“Theme for Ernie”
3. 土岐英史+片倉真由子“Black Eyes”
4. 土岐英史+片倉真由子“After Dark”
5. 峰厚介ソロ(即興)
6. 峰厚介+片倉真由子“I Remember Goko”
7. 峰厚介+土岐英史+片倉真由子+塩田哲嗣“Minor Blues”

 


Information

Days of Delight、第2弾リリースが決定!
峰厚介の8年ぶりのニュー・アルバム『Bamboo Grove』と、コンピレーション『Days of Delight Compilation Album -躍動-』を2019年1月23日(水)に発表します。

峰厚介 Bamboo Grove Days of Delight(2019)

VARIOUS ARTISTS Days of Delight compiation Album -躍動- UNIVERSAL MUSIC(2019)

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