INTERVIEW

青木慶則『青木慶則』 ピアノと柔らかな歌声だけの空間が誘う、自分自身との対話――HARCOが本名で届ける初のアルバム

青木慶則『青木慶則』 ピアノと柔らかな歌声だけの空間が誘う、自分自身との対話――HARCOが本名で届ける初のアルバム

ピアノと柔らかな歌声だけの空間が誘う、自分自身との対話――CM音楽やナレーター仕事も活発なシンガー・ソングライターのHARCOが、本名で届ける初のアルバム

 HARCO(ハルコ)名義で、20年もの長きに渡り良質なポップスを紡いできた青木慶則(あおきよしのり)が、アーティスト・ネームを本名に戻し、みずからのレーベル=Symphony Blueよりアルバム『青木慶則』をリリースした。本作は全編がピアノの弾き語りでまとめられており、ゲスト・ミュージシャンの参加は一切なし。青木の柔らかな歌とスタインウェイの美麗なピアノが堪能できる一枚だ。青木によれば、アーティスト・ネームを本名に戻すことは、すでに10年以上前から思い描いていたことだという。

 「2016年の春あたりに具体的に考えはじめて、正式に発表したのはちょうど1年後の17年春です。僕は17歳でBLUE BOYというバンドのドラマーとしてデビューしていて。作詞/作曲もわりと担当していたので、自宅には自作のデモテープが山積みでした。そんなとき、バンドとは違う素の部分を世に出す機会をもらって。でも自分が前面に出ることにはまだ恥ずかしさがあったので、とことん奇を衒った名前にしようと思って、当時HARCOと名付けたんです。その活動の前半はかなりエキセントリックなことをやっていたんですけど、後半の10年はシンガー・ソングライター然とした、やや普遍的な曲を書くようになって。その頃から、表札として本名のほうがしっくりくるのでは?と思いはじめてはいたんです」。

 長年マネージャーと二人三脚で活動してきた青木だが、これを機に独立することに。フリーランスになることに対して不安はなかったのだろうか?

 「それはすごくありました。2018年の真ん中あたりは、五月病のようになってやけに落ち込んでばかりいたんです。でも今は課題を乗り越えるたびに、〈不安〉というカードがひとつひとつ〈おもしろい〉に裏返っていくのを感じてます。まだまだ社会人1年目みたいな感じですけどね」。

青木慶則 青木慶則 Symphony Blue(2018)

 リスナーとしてはジャズやAORも通過してきた青木。本作のピアノの和声にもそのあたりの影響が見え隠れするが、ピアノ弾き語りで参照したアルバムはあったのだろうか。

 「曲の根幹はやっぱりポップスの影響が強いです。初期のジョニ・ミッチェルがギターではなくピアノで歌っている曲たちには、いつも影響を受けてます。あとはランディ・ニューマンが最近、ピアノの弾き語りでセルフ・カヴァーを続けている〈ソングブック〉シリーズも全部好きですね。ピアノだけだと、クラシックをジャズっぽく崩すイタリアのジョヴァンニ・アレヴィなど。若いシーンでは角銅真実さんのアルバムも衝撃を受けました」。

 CMの音楽やナレーションといった広告の分野でも20年近く活躍してきた青木だが、そこで得た成果や経験はアルバムにも持ち込まれているという。

 「CMの世界ってやっぱり〈訴求力〉というのが大事になってくるんです。例えばナレーションだと、雰囲気重視で柔らかく喋るときもあるけど、どちらかというとはっきりと明瞭な言葉で喋ることのほうが多くて。いっそのこと、話すように歌ってもおもしろいんじゃないかな、なんて考えたりもするんです。僕の歌声って、どうしても独特のぎこちなさ、もしくはあどけない部分があるんですけど、むしろ好きだと言ってくれる人も多いので、この際あえて音楽の域をはみ出すくらいの質感を意識するのもいいんじゃないかとも思って、取り組んでました。そういう意味ではさっきも話した、どこかストーリー・テリングの雰囲気もあるランディ・ニューマンには勝手に励まされたりしてます」。

 『青木慶則』のヴォーカルは青木ひとりで、声も重ねていない。かつて20年前、宅録での多重録音からスタートしたHARCOからは想像が付かない世界だ。

 「初期のトッド・ラングレンやビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』に代表されるような箱庭的世界を、僕も自分なりにずっと表現してきました。メインの歌もダブル・ヴォーカルにすることが常でしたね。でも真逆のアコースティックでシンプルな音の世界にも、例えばさっきの五月病じゃないですけど、ちょっと心細い夜なんかに僕はよく救われていて。寝る前に日記と向き合うみたいに、ピアノと自分だけの空間に閉じこもる、そんな憧れがあったので、こうして叶って嬉しいです」。

 次作以降の構想についても、ピアノの弾き語りやそれに近いアルバムを考えているという青木。風通しの良い本作の魅力について、こんなことを語ってくれた。

 「“瞬間の積み重ね”“働き方を考える”“支度”など、ふと立ち止まって自分のことをゆっくり考えてみる、そんな曲たちがたくさん生まれたので、それを誰かが共有してくれたら。それと、いつも完成したものは放心しちゃって聴きたくなくなるんですけど、今回はついつい聴き返していて。自分にとって楽に聴けるものは、誰かにとってもそうなんじゃないかって思いたいですね」。

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