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たった2人のサニーデイ・サービスによる、丸山晴茂哀悼ライヴ

バンドの旅はまだまだ終わらないと感じさせた一夜

たった2人のサニーデイ・サービスによる、丸山晴茂哀悼ライヴ

その日、東京・渋谷CLUB QUATTROのエントランスには、2018年5月に逝去した丸山晴茂の写真が飾ってあった。手前の献花台には花束がうず高く積まれ、丸山の写真をほとんど隠してしまっている。写真と献花台を前に手を合わせるファンもいれば、写真を撮る者も多く見られた。

2018年12月28日に開催された〈サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”〉は、タイトル通り同月19日に行われた〈サニーデイ・サービスの世界〉の追加公演だ。演奏するのは、曽我部恵一(ヴォーカル/ギター)と田中貴(ベース)の2人だけ。ステージ上にはギターとベース、アンプが並び、ドラムセットはない。丸山がバンドを離脱してからすでに数年が経つものの、開演前からその不在が強く浮かび上がる。

温かい拍手のなか、曽我部と田中が登場。97年のシングル“NOW”のカップリング“あの花と太陽と”で演奏は始まった。アコースティック・ギターを弾きながら曽我部が歌う。〈淋しくなるからぼくは歩くんだよ〉。“空飛ぶサーカス”の演奏後、曽我部が口を開いた。「結成当時は毎回やってたんだよね。インディーのときのアルバムにも入ってて、そのときは〈土曜日の音楽〉というタイトルでした。“日曜日の恋人たち”」。

その後は“真赤な太陽”、そしてゆったりとしたテンポの“青春狂走曲”と『東京』(96年)の楽曲を披露。しめやかなフォーク・ソング“枯れ葉”、切ないメロディーが強い印象を残す“江ノ島”を経て、“恋におちたら”へ。イントロのベース・リフに反応して、すぐさま大きな歓声が上がる。

観客たちは終始ステージ上の2人の姿をじっと見つめ、奏でられる音にじっと耳を傾けていた。これほど親密で、優しさとお互いへの理解にあふれたムードのライヴというものは経験したことがない。序盤からその独特の空気感に、この日の特別さを強く感じた。

デビュー作『若者たち』(95年)の“いつもだれかに”(最初のほうで歌に詰まり、演奏し直したときの温かいムードも忘れがたい)と“御機嫌いかが?”に続いて、『本日は晴天なり』(2010年)から“ふたつのハート”へ。ここで初めて2008年の再結成後の楽曲を演奏。曽我部が力強く歌う〈美しく震えてるふたつのハート〉という歌詞に、思わず舞台上の2人を重ねてしまう。

“アビーロードごっこ”を終えると、曽我部はエレクトリック・ギターに、田中はウッドベースに持ち替えて“からっぽの朝のブルース”を演奏。98年のシングル“今日を生きよう”のカップリングという珍しい選曲。ギター・ソロでは、泥臭いトーンがフロアを埋めていく。またもBサイドの楽曲“何処へ?”の後に続いて響いたのは、軽快なギター・リフ。歓声で迎えられた“恋人の部屋”が高いテンションで届けられる。

「ここでちょっとメンバー紹介をしたいと思います」と曽我部。笑うファンたち。「田中貴! 曽我部恵一!」。大きな拍手と歓声。たった2人の、サニーデイ・サービス。そのすぐ後に繊細な歌い口のイントロで“白い恋人”が始まると、感動のため息が広がっていく。

ヘヴィーな“JET”、口笛が印象的な“時計をとめて夜待てば”、ひそやかな“真夜中のころ・ふたりの恋”、そして“星を見たかい?”へ。『DANCE TO YOU』(2016年)からの楽曲“セツナ”では、田中とのハーモニーで聴かせる曽我部の歌唱が熱を帯びていく。後半では、田中と向き合ってギターを激しく掻き鳴らし、エモーショナルなプレイで歪んだ音をまき散らした。

現在のところの最新作である『the CITY』(2018年)に収録されている“完全な夜の作り方”の演奏中、曽我部の歌声が震えていることに誰もが気づいた。〈ねぇ ふと想像してみる/もし 君と出会わなかったら/もし あの時ああいうことが起こらなかったら/それはちょっと恐ろしい今夜最後の問い〉。涙で歌に詰まりながらも、曽我部は最後まで演奏をやめない。フロアでも、そこここですすり泣く声が聞こえてくる。演奏後には長い長い拍手が2人に送られた。ああ、そうか。この優しい楽曲は、もしかしたらサニーデイ・サービスというバンドについての曲なのかもしれない。

続く“恋人たち”で、曽我部は再びアコースティック・ギターを演奏。“八月の息子”の後には、「愛媛県今治市在住の田中貴くん、47歳からのリクエスト。サニーデイ・サービスで“サイン・オン”」とユーモラスに紹介。曲名を聞いた観客たちからは感嘆の声が。次の“今日を生きよう”でも、イントロと共に歓声が上がる。

繊細なメロディーの“baby blue”、“24時のブルース”、そして丸山の不在を歌った楽曲である“桜 super love”へ。丁寧に、優しく演奏される“桜 super love”に、再び長い長い拍手が送られた。〈きみがいないことは きみがいることだなぁ〉と歌われる“桜 super love”ほど、この日のライヴを見事に表した曲もない。田中は事前に〈この日は、後ろに晴茂くんを感じながら演奏したいと思います〉というコメントを寄せていたが、2人の演奏を聴きながら、レコードではこんなフィルインがあった、丸山はこんなビートを叩いていたと、どうしても思い出してしまうのだ。

「今日はありがとう。いつ始まっていつ終わるのかがまったくわからない感じですけど、いつまででもできますよ。どのくらい時間が経ったのかも全然わからないです。悠久の時間が流れてる」と曽我部が語る。それは、彼らがきらめく名曲たちを数え切れないほど多く残してきているからこそだろう。間髪入れずに“サマー・ソルジャー”を演奏すると、大きな歓声が上がった。

再び曽我部が口を開く。「来年はちょっとライヴはお休みして、サニーデイ・サービスのアルバムを作るために曲作りやレコーディングをしようと思ってます。それがうまく出来たら、ツアーもしたいと思ってて」。どよめく観客。激動の2018年を経たバンドがどんな作品を届けてくれるのか、本当に楽しみだ。

“海岸行き”を演奏し終え、「最後の曲です。ありがとう! 田中貴、オン・ベース! そして曽我部恵一でした!」と言って披露した“旅の手帖”で本編は幕を閉じた。が、もちろんその場にいる全員がアンコールを求めた。求めに応じてステージに戻った2人は、“コーヒーと恋愛”を演奏しはじめる。自然と打ち鳴らされる手拍子。田中はベースを弾かずにコーラスとカズーで参加した。2人のハーモニーが美しい“月光荘”を聴かせて、アンコールは終了。しかし、止まない拍手と歓声。

まさかのダブル・アンコールに曽我部は「終演の音楽、流れてない? じゃあ、やりましょう」と軽快に応じる。再結成前最後のアルバム『LOVE ALBUM』(2000年)から、“胸いっぱい”。曽我部は歌う。〈OH BABY ほんとの最後 長い長いお別れを〉。彼らの口から丸山の死について語られることは最後までなかった。しかし、3時間弱にわたって演奏された36もの楽曲のすべてが、この場にいない彼のために捧げられていたことは、ファンの目には明らかだ。

“胸いっぱい”にはこんな歌詞もある。〈昨日と今日と明日の旅を駆けるできごと〉。そして、“旅の手帖”にはこんな歌詞がある。〈旅の手帖にきみの名前も書き込んでポケットに忍ばせる/いつかはきっと知らない場所できみのこと 思い出すだろう〉。〈サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”〉は、バンドの過去も現在も未来も見せてくれた実に感動的な一夜だった。でもこれは、サニーデイ・サービスというバンドの旅の通過点にすぎないのだろう。彼らの旅は、まだまだ終わらない。

 


〈サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”〉
2018年12月28日 東京・渋谷 CLUB QUATTRO

メンバー
曽我部恵一(ヴォーカル/ギター)
田中貴(ベース)

セットリスト
1. あの花と太陽と
2. 空飛ぶサーカス
3. 日曜日の恋人たち
4. 真赤な太陽
5. 青春狂走曲
6. 枯れ葉
7. 江ノ島
8. 恋におちたら
9. いつもだれかに
10. 御機嫌いかが?
11. ふたつのハート
12. アビーロードごっこ
13. からっぽの朝のブルース
14. いろんなことに夢中になったり飽きたり
15. 何処へ?
16. 恋人の部屋
17. 白い恋人
18. JET
19. 時計をとめて夜待てば
20. 真夜中のころ・ふたりの恋
21. 星を見たかい?
22. セツナ
23. 完全な夜の作り方
24. 恋人たち
25. 八月の息子
26. サイン・オン
27. 今日を生きよう
28. baby blue
29. 24時のブルース
30. 桜 super love
31. サマー・ソルジャー
32. 海岸行き
33. 旅の手帖

アンコール
34. コーヒーと恋愛
35. 月光荘

ダブル・アンコール
36. 胸いっぱい

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