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電気グルーヴ 『30』 既発曲をアップデートし、クレイジー方面に振り切ったアニヴァーサリー・ソングも――電気グルーヴ、三十にして立つ

電気グルーヴ 『30』 既発曲をアップデートし、クレイジー方面に振り切ったアニヴァーサリー・ソングも――電気グルーヴ、三十にして立つ

電気グルーヴ、三十にして立つ

電気グルーヴほど、解説に困る音楽はない。

石野卓球とウルトラの瀧(2019年限定で、電気グルーヴの活動においてはピエール瀧からこの呼び名に)はいつも大真面目に、ふざけ続けている。それも30年間という長きに亘ってだ。大の大人が大真面目にふざけているのを真面目に解説することほど寒いものはないし、かと言っておもしろおかしく書いたところでやはり寒いだろう。本人たちがやるからいい。そこに解説なんか要らない。解説が必要ならば、彼らのWikipediaのほうがよっぽど濃密でおもしろい。

とは言え、結成30周年記念アルバム『30』である。というかついこの間、25周年記念作『25』が出たばかりだし、その前の20周年記念作『20』が出たのもそのちょっと前のことだったはずだ。本当に30年経った? 月日が経つのは早すぎる。そんな〈光陰矢のごとし〉な電気グルーヴの30年を、本当に簡単ではあるが振り返ってみることにする(Wikipediaには負けるが)。

電気グルーヴ 30 Ki/oon Music Inc.(2019)

破天荒な活動で局地的な人気を博したインディーズ・バンド、人生の解散を経て、電気グルーヴが結成されたのが89年(……本当だ30年前だ)。91年にはアルバム『FLASH PAPA』でメジャーデビューし(とオフィシャルサイトにはあるが、TM NETWORKのシングルのカップリング曲がメジャーデビューだとする説もある)、当初はヒップホップ的なアプローチも見受けられたものの、テクノを基盤としたもはや〈電気グルーヴというジャンル〉としか言い表せない独自のサウンドで作品をコンスタントに発表。その人気は国内だけに留まらず、海外のライヴやフェスにも多数出演し、楽曲はもとより、被り物や着ぐるみを着る、セグウェイを乗り回すなどの奇抜なライヴ・パフォーマンスでも話題を呼ぶ。

『30』は全12曲のうち、電気グルーヴの過去曲や卓球のソロ曲を大幅リメイクしたものが9曲、そして新曲が3曲収録されている。リメイク曲のなかで、元ネタが最も古いのは93年作『VITAMIN』収録の“富士山”だ。文字通り富士山の着ぐるみを着用した瀧が〈富士山 富士山 高いぞ高いぞ富士山〉と叫ぶライヴ・パフォーマンスでもおなじみだが、本作の“富士山(Techno Disco Fujisan)”では活火山のごとく暴れる富士山の激しさは鳴りを潜め、まるで不気味にそびえ立つ富士山のようにアレンジされている。よく聴くと“ピエール瀧の体操30歳”(映像作品「ノモビデオ」収録)等に使用されていると思わしき小鳥のさえずりが聴こえ、その不気味さに拍車をかけている。

97年のヒット・アルバム『A』からは、彼らの代表曲とも言える“Shangri-La”を、ドイツのエレクトロ・ポップ・デュオ、2raumwohnung(ツヴァイラウムヴォーヌング)のインガ・フンペをゲスト・ヴォーカルに迎えて“Shangri-La feat. Inga Humpe”としてリメイク。原曲はベブ・シルヴェッティの“Spring Rain”を大胆にサンプリングしたものだったが、今回はそのメロディーを活かしつつも、よりダークでアダルティーな路線に仕上げている。『A』収録曲からは“猫夏(CATY SUMMER)”をアレンジした“海猫夏 Caty Summer Harbour”もあり、こちらはウミネコが鳴くサンバ・ボッサ調に生まれ変わらせている。

90年代後半からは石野卓球がDJとして国内外で精力的に活動。一方、ウルトラの瀧は俳優やタレントとしても活動し、後に日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞したり、ディズニー・アニメの吹き替えもこなしたりと、今や〈ピエール瀧って電気グルーヴだったの!?〉と音楽家としての彼を知らない若者もいるとかいないとか。

99年には砂原良徳が脱退。2人体制になって初のシングル曲でもあり、2000年作『VOXXX』にも収録されている“FLASHBACK DISCO”は“Flashback Disco(is Back!)”として復活。今作では電気グルーヴのサポートではおなじみの牛尾憲輔(agraph)をゲストに迎えているほか、“N.O.”(『VITAMIN』収録曲)の某フレーズが登場しており、往年のファンはニヤリとするかもしれない。

ファン向けと言えば“WIRE WIRED, WIRELESS”は2000年作のコンピ『WIRE 00 COMPILATION』収録曲のリメイク。同じく“Flight to Shang-Hai(It's a such a super flight)”のオリジナルは2001年の卓球ソロ作『KARAOKEJACK』に収録されており、これらもファンにはたまらないマニアックな選曲だろう。

活動休止、ベスト盤のリリース、スチャダラパーとのコラボ作などを経て、『VOXXX』から実に8年ぶりとなった2008年のアルバム『J-POP』からは、インスト曲“いちご娘”を大胆アレンジ。“プエルトリコのひとりっ子”(2017年作『TROPICAL LOVE』収録曲)の一節を引用し、トミタ栞をヴォーカル・コーラスに迎えた“いちご娘はひとりっ子”と、原曲同様インストの“いちご娘(ひとりっ子でない)”として2パターンでリメイクしている。〈ひとりっ子〉の方はすでにライヴでも披露されており、音源化が待ち望まれていた楽曲。電気作品ではおなじみの田中秀幸(フレイムグラフィックス)が手掛けたMVも公開され、トミタ栞がクセになるダンスを披露している(トミタは元ネタの“プエルトリコのひとりっ子”にも参加している)。3曲目の“いちご娘はひとりっ子”から12曲目の“いちご娘(ひとりっ子でない)”の間に、いちご娘がひとりっ子じゃなくなっているのも気になるポイントだ。

そして比較的最近の曲では2013年の『人間と動物』より“Slow Motion”が〈30th Mix〉としてリメイク。まるで真っ暗闇にポツンと電灯が灯るような孤独感が迫ってくるが、それはここまで紹介した9曲のリメイク曲のいずれにも当てはまり、30年の活動の末に高みに辿り着いた男たちの、なんとも言えないわびしい気持ちが表現されているようにも感じてしまう。

2015年には、これまでの活動を総括したドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-」が公開。そして現在まで13作のアルバムと19枚のシングル、さらにはアナログ、リミックス、オムニバス、映像、楽曲提供、書籍、果てはゲームまで、数多くの作品を発表し続けている。

また、2009年には前述の結成20周年記念作『20』を、2014年には同25周年記念作『25』をそれぞれリリースしており、今作はその流れを汲む作品とも言えるだろう。3曲の新曲のうち、“電気グルーヴ10周年の歌 2019”はオリジナル・ヴァージョンのない完全な新曲で、“電気グルーヴ20周年のうた”(『20』収録曲)、“電気グルーヴ25周年の歌(駅前で先に待っとるばい)(25 Mix)”(『25』収録曲)のいわば〈エピソード・ゼロ〉的な曲と解釈すればよいだろうか。もうひとつの新曲“電気グルーヴ30周年の唄”と合わせて周年ソングを4曲改めて聴けば、陰鬱な気持ちが晴れてハッピーなオーラに包まれること間違いなしである。なお“電気グルーヴ30周年の唄”のほうは町あかりが色っぽい歌声を披露しているほか、電気グルーヴと親交の深い日出郎も特徴的な声で参加している。残す新曲“鬼日_1117KIBI”に関してはノーコメントとさせていただこう。

代表曲から通好みの楽曲までこれまでの作品を振り返りつつ、小ネタをまぶしながらいずれをも最新ヴァージョンにアップデート。さらにどこまでもクレイジー方面に振り切ったアニヴァーサリー・ソングも追加し、〈三十にして立つ〉を地で行く電気グルーヴ。3月からは結成30周年を記念した「ウルトラのツアー」も開催し、誰に言われなくたってこれからも精力的に活躍していくことでしょう。次は40周年? いや金婚式(50周年)を目指して、これからもマイペースに、いつまでも僕らを楽しませてくれたらありがたいな、と思います。

 

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