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JUST LIKE YOU LIKE IT
——このアルバムはバックストリート・ボーイズそのものなんだ
ニック・カーターが語る、5年ぶりのニュー・アルバム『DNA』に込められた思い

 オリジナル・アルバムとしては通算9作目にあたる『DNA』。このアルバムは、バックストリート・ボーイズにとって、新たな挑戦となる作品であるとともに、これまで自分たちの中に脈々と流れ、多大な影響を受けてきたサウンドを、バックストリート・ボーイズ流に甦らせた楽曲の数々が収録されている。まさにタイトル通りのアルバムに仕上げられた。「僕たち5人は性格も違えば、体験してきた音楽も違う。そんな個性を少しづつアルバムに反映した。一つのアルバムを作るために個性的な5人が一緒になって、バックストリート・ボーイズの〈DNA〉を形にした。このアルバムは僕たちそのものなんだ」とニック・カーターは語っている。

BACKSTREET BOYS DNA K-BAHN/RCA/ソニー(2019)

 5年ぶりの新作となる『DNA』は、2018年夏に発表した先行シングル“Don't Go Breaking My Heart”の世界的ヒットにより、その方向性を現実的なものにした。つまり、新しい方向性を示唆したシングルのヒットによって、アルバムのテーマ、規模感、その先にあるワールド・ツアーまで想像することができるようになったのだ。“Don't Go Breaking My Heart”はスチュアート・クライトンの作品で、彼がバックストリート・ボーイズのヴェガスでのレジデンシー・ショウを観に来て以来、交流を深め、ヴェガス公演に刺激を受けて書き上げた曲が何曲かアルバムに収録されている。特に、“Don't Go Breaking My Heart”は、久しぶりに5人が揃ってダンス・パフォーマンスを披露し、この2年間ヴェガスで培ってきたパフォーマーとしてのスキルアップを見せつけてくれた。そんな彼らの前向きで、常に新しいことに挑戦する姿勢は、2月10日に授賞式が行われるグラミー賞の〈最優秀ポップ・デュオ/グループ/パフォーマンス部門〉に、17年ぶりにノミネートされるという快挙を成し遂げ、25周年という大きなアニヴァーサリーに華を添えることになった。

 「僕たちはこの1、2年ずっとレコーディングを続けてきた。いろいろな曲を試してみたけど、僕たちの心に刺さる曲には巡り会えなかった。スチュアートが作ったこの曲は、アルバムの方向性を押し進め、僕たちがどこに進むべきかを明確にしてくれた。〈こんな曲を歌いたかった〉という意味ではなくて、僕たちをやる気にさせてくれた曲なんだ。僕たちは“Don't Go Breaking My Heart”で、自信を得ることができた」。

 『DNA』には多くのソングライター、プロデューサーの手による作品が集められた。一人のプロデューサーにすべてを委ねてしまうと、幅広いサウンドやソングライターとの出会いが叶わなかったという経験から、あくまでも素晴らしい楽曲との巡り合わせを大切にし、楽曲を第一に考えた選曲、レコーディング方法を選んだという。セカンド・シングルの“Chances”は、ライアン・テダー、ショーン・メンデスがソングライターに関わっている。ニック自身、ショーン・メンデスのファンであると公言しているが、時の流れを感じさせない素晴らしい楽曲と出会えたことに感謝していると言う。

 「この曲はシンガーとしての挑戦になった。説得力と強さをもって歌うためには、シンガーとして優れていなくてはいけない。完璧に歌うための挑戦だったよ」。

 カントリー界のジョシュ・キアーによる作品“Just Like You Like It”は、バックストリート・ボーイズのヴォーカルの魅力を引き出している。「僕たちはカントリー・ミュージックも大好きなんだ。カントリーの核は、曲、メロディー、歌詞にあるからね。フロリダ・ジョージア・ラインと一緒に“God, Your Mama, And Me”をレコーディングしたことがあるんだけど、カントリー・エアプレイ・チャートで1位になったんだ。そんな繋がりからナッシュヴィルでもアルバムのためのいい曲にも出会うことができたってわけさ」。

 冒頭にも書いたが、このアルバムは彼らにとっての新しい挑戦、という意味は、バックストリート・ボーイズが自分たちのDNAとなった、カントリー、アカペラ、R&B、ロック・バラードといったサウンドを歌うことにより、自分たちが何なのか、誰なのか?という問いに答えを出し、新しいバックストリート・ボーイズのチャプターの幕開けを飾ったということなのだ。3曲目として公開された“No Place”は、まさにロック・バラードで、コンサートでファンと一体になって歌う姿が想像できる。

 4曲目に公開されたのは、アカペラ・ソング“Breath”。彼らは以前リリース・イヴェントなどでアカペラを披露することがあったが、一つの楽曲としてレコーディングしたのは初めてとのことだ(以前イントロダクションとしてレコーディングはしている)。「デビューした頃、ミリ・ヴァニリの口パク問題があって、僕たちは自分たちの力を証明する必要があった。やるべきことのひとつだったんだよ、アカペラは。今はアカペラで僕たちが知られていたことを知らない人たちもいると思う。“Breath”はあの頃へのオマージュになっているよ」。

 映画「ピッチ・パーフェクト」のヒットやペンタトニックスの大ブレイクで、アカペラが音楽界のメインストリームを飾っているいま、バックストリート・ボーイズが25年間培ってきたアカペラ・パフォーマンスを収録する理由は、自分たちのルーツに戻るという尊い思いが含まれている。

 バックストリート・ボーイズは、1月の来日プロモーションを終え、ヴェガスでのショウに戻り、その後ワールド・ツアーに出る。ヴェガスを超えるステージを準備しているということだ。「誰もが見たこともないショウになるよ。僕たちはもっともっと上り詰めないといけないことに気付いた。ヒット曲は全部入れてファンが求めるショウにする。そして僕たちは次のレヴェルへと成長していくんだ」。バックストリート・ボーイズの第2章の旅は始まった。 *今泉圭姫子

『DNA』参加アーティストの関連盤。