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自分自身の多種多様さ、変幻自在になれるところを活かす

……といったエピソードを背景に編まれたアルバム『フィクション』。ここからは、収録曲1曲1曲について語っていただきます!

――“俺は、ゆく”

 「アルバムを作る、ってなったときにいちばん最初にあった曲で、テーマとしては、21世紀の“My Way”をやろうと。フランク・シナトラみたいにマイク一本で生き様を歌うみたいな。25歳のときに“25才”って曲を書いたんですけど、それの〈37歳版〉でもありますね。“25才”っていう歌は、将来に対してすごく焦ってる歌、うまくいかないなって言ってる歌なんですけど、でも、37歳になったときにそれと同じ焦り……どうなるのかな?とは思ってるんだけど、そういう境地からは抜け出たって感じなんですよね。じゃあ、いま何をいま感じてるかって考えたら、平均寿命の半分近く終わってるので、これから先に〈限り〉があるっていうことなんですよ。闇雲にがんばっていた若いときにはその感覚がわからなかったし、この年齢になると親の年齢も上がって、昔大好きだった大スターたちがこの世を去っていったりするじゃないですか。そういうのを目の当たりにすると、時間が進んでいることや、自分が残りに向かってるっていうことを痛切に思うんですよね。そうやって限りがあるっていうことをリアルに感じたいま、書いてみようと思ったラヴソングがこの曲なんです。そもそものテーマは、歳を取れば取るほど思いが残る、っていうことなんですね。思い残すことがあって、でももう戻れないっていう、そこを丁寧に描いたラヴソングになればいいなって。言いたかったけど言えなかった思いって、人の気持ちにずっと残るじゃないですか。言っておけばよかったのにっていう気持ちはずっと残るし、言いたかった人がこの世からいなくなっちゃったら、伝えることが絶対にできなくなっちゃうわけじゃないですよね。そこが人間の愛だと思うし、実際に言いたかったけど言えなかったことにも愛があるし、若いときにはわからなかったんだけど、いまの年齢になるとそういうことを丁寧に歌っておきたいなって思うようになって」

――“フィクションの主題歌”

 「ミュージカルの名曲と言われるようなタイトルとかを歌詞に散りばめて、〈どんな歌でも 君のために これこそが事実!〉って締めてるんですけど、やっぱり、人が暮らしていくなかで、どんな架空のものであっても、その人の生活が少しでも楽しくなったり、寄り添えたりするんだったら、そのためだけにやってるようなものだっていう気概が僕にはあるので、それでいいじゃんって。堂島くんだったらうまくやってくれるからって外から頼まれる仕事も多かったのが、自分の多種多様さとか、変幻自在になれるところにうまく結びついてくれて、それを思いきり活かそうっていうのが今回のアルバムなんですね。それゆえに、“俺は、ゆく”から一転して“フィクションの主題歌”のような曲があったりっていう、1曲1曲の振り幅の広さに繋がっていくんじゃないかなって。自分はこうしたい、こう見せたい、こうなったらカッコイイっていう気持ちはあるんですけど、それが強すぎちゃうと、それでしかない。そこをあえて捨てる、そこはたいした問題じゃない、むしろ何をやっても堂島孝平に聴こえるねってって言われることのほうが大事。そこに行き着けたのが嬉しいですね」

――“嘘だと言ってくれ”

 「ルーツがわかりやすく見え透けるものって、ボツ個性だと思っちゃってるところがちょっとあって、どんな音楽もいろんなルーツから影響を受けて派生してきてると思うし、自分もそうだと思うんですけど、見えすぎるとそのルーツが先に立っちゃって、ヘタすれば歌う人がその人じゃなくてもいいんじゃないかなって。そういうものになっちゃう恐怖心が若い頃はちょっとあったと思うんですよね。あとは、一点のところにいられないというか、〈これが好き!〉って思っていても、好きだった自分が次に新しい何かを好きになるのが楽しくて、自分をアップデートしていくのが楽しいっていうところとか。そういうことでいうと、これだけわかりすく、これってビートルズじゃん、ポールじゃんとか言われるような音でも、そういうのをもじりながら自分流に、自分のユニークさとかタレントとしての見せ方として上書きできるところまで来たなって思いますね」

――“OH!NO!”

 「こういうふうに、音は薄いんだけどエネルギッシュに聴かせるやり方って、すごくIQの高いやり方のような気がするんですよね。曲のアイデアは光くんといっしょに考えたんですけど、僕が作ったデモを簡略化して、隙間をわざと作るアレンジに光くんがしてくれて。今回のアルバムは、全体的にモノトーンっぽい色合いの瞬間が多いなって思うんですけど、ポップに、明るく、いくらでもブライトにしようとすればできるような曲、っていうところがおもしろいんじゃないかと思います。それは僕の考えるサウンド・プロダクションと、光くんが得意とするプロダクションが掛け合わさった結果そうなったところで。2年前に“き、ぜ、つ、し、ちゃ、う”っていう、とことん〈晴れ〉な曲を出しましたけど、光くんは自分のスタジオに〈ロンドン・スタジオ〉って名付けるぐらいUK好きなので、たぶん同じ〈晴れ〉っていうイメージでもちょっとスモーキーというか、ロンドンっ子にしてみたらこれでもぜんぜん晴れだぜっていうような感覚があって、そこが彼のおもしろいところだと思うんですよね。その感性がモノトーンを生んだ要因として大きいんじゃないかって」

――“誰のせいでもない”

 「乙葉さんには、10年ぐらい前に何曲か曲を書いたんですけど、ご主人の藤井隆さんも僕の書いた“一秒のリフレイン”がすごく好きだって言ってくれてて。で、藤井さんに、Small Boysに参加していただいたのをきっかけに、久しぶりに乙葉さんとお会いしたんです。この曲は、もともと誰かにデュエットをお願いしようと思って歌詞も書いていたんですけど、内容的に味わい深いものを表現できる、そういう立ち位置にいる人、年齢的なものとかキャリア的なものとかも含めて、そういう人がいいなあって思ったんですね。それで、そろそろ相手を決めなきゃっていうときに、〈あっ、乙葉さんがいる!〉て思って、まず藤井さんに連絡を入れてみたんです。乙葉さんって普段からニコニコしているイメージですけど、歌うとどこか憂いのある、ちょっとくすんだ感じの切なさがとっても良いんですよね。音楽自体すごく好きで、歌うことが好きっていう気持ちもいまだに変わってなかったところもすごく嬉しかったですね」

 

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