夜明けを迎えた世界を醜くも美しく染めるのは、鮮烈で繊細な色とりどりの音と言葉たち。さらなる飛躍を見せる歌声の向かう先にはどんな新しい地平が広がっているのだろう?

 鮮烈さと繊細さを兼ね備えた表現力豊かな歌声を持ち、ホリエアツシ(ストレイテナー)や荒井岳史(the band apart)ら多彩なミュージシャンがその才能に惚れ込むシンガー・ソングライター、majiko。昨年はレーベル移籍を経てのミニ・アルバム『AUBE』で自身の活動の新たな〈夜明け〉を宣言し、続くバラード調のシングル曲“ひび割れた世界”では佐野史郎主演のTVドラマ「限界団地」の主題歌を担当。この冬にはChiho(H△G)とのコラボ名義で新アニメ「エガオノダイカ」のオープニング・テーマ“エガオノカナタ”を歌うなど、その歌は大きな広がりを見せているところだ。

majiko COLOR ユニバーサル(2019)

 そんな彼女が「私がいちばん大事にしてるのはライヴなので、ライヴでしっかりと盛り上がれる曲が欲しくて」作り上げたのが、今回の新作EP『COLOR』。リード曲の“狂おしいほど僕には美しい”は、origami PRODUCTIONS所属のMichael Kanekoが彼女のライヴでの印象を受けて書き下ろしたという、ひりつくような感傷を秘めたオルタナ・ロックで(作詞はHiro-a-keyが担当)、みずからが〈どうしようもなく いびつな存在〉であることを受け入れ、それを〈狂ってるほど 僕には美しい〉と言い放つ叫びにも似た歌声が胸を打つ。

 「例えば若くてめちゃくちゃ美しい女の人の裸よりも、人妻のちょっと崩れてる裸のほうが綺麗だと私は思うんですよ。それは全然話が違うかもしれないですけど、でも多分そういうことで、人間の醜い部分とか、人間らしい部分は私にとって美しいし、すごく芸術的だと思うんです。サビの叫ぶような歌い方も、内に秘めるヘイトも美しいんだって言い切る、ある種の気づきであり目覚めの部分だと思っていて。自分の嫌な部分とかも、別に隠さなくていいことだと思うんですよ」。

 また、真っ直ぐな眼差しで〈「頑張ったね。」〉と呼びかける、本作で唯一の自作曲“ミミズ”について、彼女は「死にたいと言いつつもちゃんと今まで生きてきた自分を肯定するための曲」だと語る。

 「この曲は夏頃に書いたんですけど、土の中から出てきたミミズが干からびて死んでるのを見て、“ミミズ”というタイトルにしようと思ったんです。私もミミズは気持ち悪いけど(笑)、頑張ってもがいてる人も、生きるために這い出してきたミミズも同じだと思うんですね。それとこの曲には自分なりの〈生きること〉という裏テーマがあって、〈スピードを上げても 赤になれば止まるんだもんな〉という歌詞も自分にすごく当てはまるんです。グーッてなってもやっぱり死ねなくて、生にしがみつく自分が醜いと思ったり、どんなに醜くてもいいから生きるべきだと思ったり……わからない人にはそんな気持ちのことを理解できないだろうけど、食いしばりながら、自分に鞭打ちながら、今まで生きてきたんだから、自分自身や同じような境遇の人を肯定する曲を書きたいと思って」。

 一方、仙台が誇るヒップホップ・ユニットのGAGLEをフィーチャーした“Scratch the world”では、DJ Mitsu the Beats製のメロウな横揺れビートに乗って初の本格的なラップに挑戦。ラッパーのHUNGERが自身のヴァースで提示した〈トンネル〉というテーマを足掛かりに、暗がりをみずからの手で切り拓いて進むモグラに自身の気持ちを投影したリリックの世界観が秀逸だ。

 「子どもの頃に、一枚の画用紙にクレヨンで適当にいろんな色を塗って、その上から黒のクレヨンを塗って、それを針で削って絵を描いていくと、下の色が出てきてすごく綺麗になる、という遊びをしてたんですけど、それを歌詞に盛り込んだらマッチしました。それと私はTHA BLUE HERBが大好きなんですけど、HUNGERさんもどことなくTHA BLUE HERBっぽい、真に迫るカッコいいラップをする方だなと思います」。

 さらに、「昔から母(シンガーの小島恵理)が歌ってるのを聴いて、歌ってみたかった」というスティーヴィー・ワンダー“Don't You Worry 'Bout A Thing”を、母親とゆかりのあるピアニストの伴奏でソウルフルにカヴァー。また、学生時代に組んでいたバンドでよく演奏していたというクーラ・シェイカー“HUSH”も、いつもより弾けた歌いっぷりで披露し(「王子(クリスピアン・ミルズ)のことはめっちゃ意識しました(笑)」)、まさに色とりどりのmajikoを楽しめる一枚になっている。しかも彼女はすでに次の作品に着手しているとのことで、その視線の先にはさらにカラフルな景色が広がっているようだ。

 「『COLOR』全体のバランスを踏まえて、もっとカッコよくしたい、という向上心はめちゃくちゃあります。今作でもいろんな種をまいてるので、もう芽吹くしかないと思いますね(笑)」。

 

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