結成以来メンバーチェンジなしの結束力の強さ

 四重奏団というと弦楽四重奏団を思い浮かべる人が多いと思うが、フォーレ四重奏団はピアノ四重奏団である。メンバーはエリカ・ゲルトゼッツァー(vn)、サーシャ・フレンブリング(va)、コンスタンティン・ハイドリッヒ(vc)、ディルク・モメルツ(p)。ドイツ・カールスルーエ音楽大学卒の4人によって1995年に結成された。以来、23年間メンバーチェンジなし。個性的な4人だが、とても仲がいい。

「私たちは多くの弦楽四重奏団のように第1ヴァイオリンが主導権を握るわけではなく、それぞれが自分の役割を担い、曲によって各楽器が主旋律を奏で、みんなが対等に意見を出し合ってすべてを決めています。とても民主的で、うるさいくらい話し合う」

 女性はエリカひとりだが、まったく問題はない。

「私は男兄弟のなかで育ったので慣れているんです。彼ら3人は悪ガキみたいなもので、喧嘩が始まるといつも私がまとめているの。それがうまくいくコツ(笑)」

FAURÉ QUARTETT ムソルグスキー: 展覧会の絵(ピアノ四重奏版) Berlin Classics(2018)

 新譜はムソルグスキーの《展覧会の絵》(ディルク・モメルツ、グリゴリー・グルツマン編曲)、ラフマニノフの《絵画的練習曲集〈音の絵〉より》(モメルツ編)。両曲ともピアノ担当のモメルツによる編曲だ。

「ムソルグスキーはロシア・ピアニズムを知り尽くしている恩師のグルツマン教授とともに編曲を行いました。この曲は各主題が明確なので弦楽器に置き換えてもそんなに苦労はしませんでしたが、ラフマニノフの方は録音の最中にも楽器を変えたり、細部を調整したり、大変でした。ラフマニノフは軽やかで情感豊かな音色が欲しかったのでヤマハのピアノを使い、ムソルグスキーはゴジラのような低音が必要だと感じたため、ベーゼンドルファーを用いています」

 この編曲版に関し、弦楽器の3人は「最初は複雑で難解だと感じたが、弾き込んでいくうちに編曲の意図が理解でき、自分の役割を完璧なる演奏で果たそうと思った」と語る。その精神は、彼らが4年間師事したアルバン・ベルク四重奏団から学んだものである。

「アルバン・ベルクの4人から得たのは、それぞれの個性を生かしながら、常に全体を俯瞰する視野の広さを持つこと。彼らは映画のワンシーンのように、想像力を喚起する美しい音楽の描き方を伝授してくれました。私たちはそれをいずれの作品でも実施しています」

 フォーレ四重奏団は一糸乱れぬ緊密なアンサンブルを特徴としているが、生まれ出る音楽は非常に自由闊達で開放的で、しかも各人の音の個性も際立つ。学生時代からのつきあいゆえ、お互いに忌憚のない意見を言い合える仲。同窓会に集まった友人同士のような親密的な雰囲気が、まさに結束力の強さを示している。