INTERVIEW

GRAPEVINE『ALL THE LIGHT』 デビュー20年を超えた3人の年齢の重ね方、音楽との接し方

(左から)西川弘剛、田中和将、亀井亨

GRAPEVINEのニュー・アルバム『ALL THE LIGHT』は堂々たる一枚だ。2016年の前々作『BABEL, BABEL』では再現性を度外視したアレンジで攻めまくり、前作『ROADSIDE PROPHET』はオーセンティック志向を貫いたわけだが、今作はそのどちらでもない、あるいは両方の要素が絶妙なバランスに支えられている。バンドの初作『退屈の花』(98年)にも携わったホッピー神山のプロデュースもあり、サウンドは開放的で閃きに満ちていて、いわゆる成熟や原点回帰とも異なる魅力を放っている。

それにしても、GRAPEVINEは説明のしづらいバンドだ。文学的でひねくれていてソウルフル、というのはデビュー時から一貫しているものの、キャリアやサウンドの変遷や、築き上げてきたポジションもそうだし、今回の新作にしたって比較対象を探すのすら難しい。〈孤高〉という語を辞書で引くと、〈孤独で超然としていること。ひとりかけはなれて、高い理想をもつこと〉と出てくるように、どこにも媚びず我が道を突き進んできたからこそ、彼らは多くの信頼を集めてきたとも言える。それに、わかりづらいものを読み砕こうと背伸びするのは、ロックを楽しむ基本中の基本でもあったはず。彼らを知らないサブスク世代のリスナーにも、このアルバムには多くの発見があるだろう。

このあと、GRAPEVINEは進境著しい中村佳穂とのツアーも控えている。いまも刺激を求め続けるバンドの3人に話を訊いた。

GRAPEVINE ALL THE LIGHT SPEEDSTAR(2019)

いまはフラットでニュートラルな状態

――新しいアルバムは過去の2作ともまた違った感じになりましたね。

田中和将(ヴォーカル/ギター)「ここ最近はずっとセルフ・プロデュースでやってきたから、アルバム一枚を通してプロデューサーを迎えたのは久々で。そういう意味では、全然違うイレギュラーな形だったものですから。いろいろ違っていて当然だろうし、むしろ違っていてほしいなと思っていました」

――イレギュラーな作品にしたいという考えは、当初から念頭にあったんですか?

田中「イレギュラーにしたいというよりは、これだけ長年やっていると、自分らのやり口みたいなものも大体わかってくるものなので。そろそろ、いい加減プロデューサーをつけようと。空気の入れ替えじゃないですけど、何かしら違ったアイデアや意見によってリフレッシュしたい気持ちは以前からありました」

――以前、Mikikiに掲載された『BABEL, BABEL』についてのインタヴューで、プロデューサーとしてキシ・バシさんを迎えるプランもあったとお話されていました。もしイレギュラーな作品をめざすのであれば、そんなふうに接点のなかったプロデューサーを迎えるプランも考えうるのかなと思いました。そのなかで、旧知の間柄であるホッピー神山さんにプロデュースを依頼したのはなぜでしょう?

田中「これまでの作品もそうでしたけど、プロデューサーを誰にするといってもなかなか決まらないんですよ。〈こういうヴィジョンがあるからこの人に頼もう〉というのが普通だと思うんですけど、(アルバムを作りはじめる時点では)特にヴィジョンがないので、プロデューサーを選ぶ基準というものを持ってなくて。ただ、ホッピーさんはこれまでにもお願いしてますし、その頃と比べて僕らもずいぶん経験を積んでるものですから。いま一緒にやるとどうなるのかという興味もあったし、あの人が相当ぶっ飛んだ人だというのはわかっていたつもりなので。そういうオルタナティヴなところを欲してたんじゃないですかね」

――バンドは現状、わりとポジティヴなモードにあるんでしょうか?

西川弘剛(ギター)「いや、それよりはフラットでニュートラルな状態だと思いますね。だから外部プロデューサーを入れる余地があるのかもしれない」

――ホッピーさんは今回の制作にあたって、過去のアルバムもしっかり聴き込んでこられたそうですね。

西川「そうそう。真面目な方なのでかなり予習をしてくれたみたいで。以前、自分たちがプロデュースしてもらったあとは直接お話してこなかったんですけど、(最初に携わった当時から)僕らのことをずっと気にかけてくれてたみたいです。最初にご一緒した頃も、われわれに足りないものを直接的に指摘してくれる場面もありましたし、プレイやディレクションであったり、いろいろなことを教えてくれたのかなといまになって思いますね」

――ホッピーさんと制作に取り掛かった時点で、〈こんなアルバムにしよう〉みたいなヴィジョンを話し合ったりしていたんですか?

西川「大まかにですけど、抜き差しがあるようにと言いますか。ホッピーさんには、一曲一曲が全部しっかり出来すぎてると言われて。それよりも隙間があるというか、100パーセント聴かせる曲もあれば、無理に聴かせない曲があってもいいじゃないかと。そういう風通しの良さを意識されていたみたいですね」

田中「あとわれわれとすれば、ヴァラエティーに富んだ曲作りをいつも心掛けてやってきたつもりなんですよ。それでもホッピーさんは、もっと個性的な面構えが何通りもあっていいとおっしゃっていて。今回の1曲目“開花”でやったアカペラとか、普通にバンドをやっていたらこんなことしないですよ(笑)」

――“開花”のアカペラはホッピーさんからの提案だったそうですね。

田中「半分くらいまでプリプロを進めた時点でリクエストされたんです。きっとその時点で、ホッピーさんのなかではアルバムの全体像のイメージがあったんでしょうね。ただ、普段は家でギターを使って作るんですけど、アカペラの曲なんてやったことないわけで。メインの声を録ったうえにハーモニーを重ねたんですけど、声をダブルにしてみたり、高音や低音だけ録ってみたりと、余白や遊びの部分があるものをめざして作りました」

――曲調やハーモニーは、ビーチ・ボーイズよりもビートルズっぽい感じがしました。

田中「結局、ビートルズが体に染み付いているんでしょう(笑)。コード進行もビートルズっぽいし」

――他の曲もサウンドがすごく練られていますよね。“雪解け”や“Asteroids”における80年代っぽいシンセ使いとか。

田中「何も言わずに(音を)ガンガン入れていくんですよ。それから〈どう?〉って聞いてくる(笑)。プリプロの時点で思いつくまま入れていって、二度と同じふうにできないからというので、そのまま採用しました」

西川「ホッピーさんはネタの宝庫なんです」

今回はホッピーさんに乗っかる気満々だったので

――曲にもよると思いますが、どういう順序で作られていくものなんでしょう?

田中「メンバーの誰かが作ってきたデモテープを基に、プリプロの段階でジャムって膨らましていくんですよ。デモの時点ではいつもシンプルで、ワンコーラスしか入っていなかったりするので。そのアイデアを解体・再構築していくと言いますか、プリプロのヘッド・アレンジで固めていく感じですね」

西川「大体のアレンジが決まったら音を入れてみようか、みたいな感じで。ギターとかを最初に入れたあと、ホッピーさんが空いているところに音をどんどん入れていく。あと、今回のアルバムはSEが入っている曲が多いですけど、それは全部ホッピーさんによるもので、音源のライブラリをたくさんお持ちなんです。iPodから出てくるんですよ、モノラルで(笑)」

田中「かなり古いiPodだよね」

西川「〈この音入れるかー〉みたいな感じで。どういう感覚でどうチョイスしているのかわからないですけど、僕には真似できないと思いましたね。先が見えるタイプの人なんでしょう」

亀井亨(ドラムス)「あと、決断もすごく早いんですよ」

田中「なんであれがピンポイントで思いつくのかなって感じだよね。その閃きというのも迷いがないですし。シンセやキーボードをダビングするときも、例えば西川さんがギターを入れてダビングしているときには、すでにどう弾こうか思いついててソワソワしていて(笑)。で、西川さんがブースから帰ってきたら、ギターのテイクがどうだったとか意見も交わさず、まっすぐ録りに行くんですよ。音源を使ったりカオスパッドを使ったり、DJプレイみたいな感じでしたね」

西川「そうそう、キーボード的なプレイはあまりしてないんですよ。印象的なフレーズや音色をコラージュしているような感じというか」

――そういう話でいうと、XTCの『Skylarking』(86年)をうっすら思い浮かべたりもしたんですよね。ホッピーさんがトッド・ラングレン的な役割で。

西川「いろんな音色が出てくるという意味では近いのかもしれないですね。今回はすごくカラフルに聴こえると思うので」

――それこそ、リード・シングルの“Alright”はブラス・アレンジも含めて華やかですよね。

田中「この曲はお蔵入りしかけたというか、一旦保留になっていた曲で。自分たちで作ってたときは方向性を見失って、なかなか仕上がらなかったんですよ。それで、ホッピーさんとやるときにストック曲のなかに混ぜておいたら、〈私にアイデアがあるからやろうよ〉って言い出してホーンを入れることになったんです。僕が作ってた時はポール・ウェラーみたいなギターをザクザクッとやるような感じだったのが、生まれ変わりましたね。エゲツないホーンで驚きましたけど(笑)」

――かたや“こぼれる”はギター弾き語りを基調にしていますけど、シンプルな曲調のなかにいろんなアイデアが詰まっています。

田中「これもホッピーさんから、〈(アルバムの)真ん中あたりにエレキの弾き語りみたいなの作ってきてよ〉とリクエストが来て。曲を書いている段階で、後ろのほうをカオスな感じにするだろうというのは見えていたので、その計算のもとに作ってみました。案の定、歌とギターを録り終えたあと、ホッピーさんが〈じゃあ西川くん、イカした音響入れてよ〉と言ってましたね」

――ちなみに、ここ最近はどういう音楽を聴いていたんですか?

田中「バンドの曲はそんなに聴いてないですね。フランク・オーシャンみたいな、アンビエントR&B的なやつが相変わらず好きで」

――NHK-FMの「サウンドクリエイターズ・ファイル」に出演したとき、モーゼス・サムニーの“Rank & File”をかけていたみたいですね。

田中「あの曲を多重録音しているライヴ映像がすごいんですよね。最近のジェイムス・ブレイク以降、ボン・イヴェールとかああいう流れも感じさせるし、ブラック・ミュージック好きとしては黒いところがあるのもよくて。ヒップホップも最近よく聴くし、LAビートも格好良いんですけど、シンガー・ソングライター的な黒人音楽がやっぱりいいなと。ただ、このアルバムを作るにあたって影響が表れたかというと、そういうものでもないですね。もっと別のものを参考にしていたかもしれない……というより、今回はあんまり具体的な名前が挙がらなかったかな」

モーゼス・サムニーの2018年のEP『Black In Deep Red, 2014』収録曲“Rank & File”のライヴ映像
 

西川「挙がったとしても、最終的に別の方向に向かうことが多かったです」

田中「9曲目の“Era”はもともと、ウィリー・ネルソンみたいな感じにしようと話していたんですよ。でも、全然そんなふうにならなかった(笑)。今回はホッピーさんがいるし、僕らも乗っかる気満々だったので、何かしらのイメージに寄せるって感じでもなくて。だから作業もサクサク進んでいくんですよ」

――じゃあ本当に、ホッピーさんに委ねるというか。

田中「そうですね。ただ基本的には、〈君らが好きにやりなさい〉というのが前提にはあって。自分たちのイメージでまずはやるんですけど、そこでホッピーさんが出してくれるアイデアを優先するみたいな感じでしたね」

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