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billboard classics〈ナイマン、グラス&ラフマニノフ premium symphonic concert〉 躍動と構築、そして陶酔へ――名匠・湯浅卓雄の新世界

billboard classics〈ナイマン、グラス&ラフマニノフ premium symphonic concert〉 躍動と構築、そして陶酔へ――名匠・湯浅卓雄の新世界

躍動と構築、そして陶酔へ
名匠湯浅卓雄の新世界

 クラシック音楽を新たに切り拓く〈billboard classics〉。東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで開催される3月2日(土)の公演は、近現代作曲家の大家の作品が取り上げられる。ロンドンを拠点とする湯浅卓雄のタクトのもと、神奈川フィルによって演奏されるのは、マイケル・ナイマン『ピアノ協奏曲』(『ピアノ・レッスン』より)、フィリップ・グラス『ヴァイオリン協奏曲第2番』、そしてセルゲイ・ラフマニノフ『交響曲第2番』だ。すぐさま多くの音楽ファンには、ナイマン作品からは映画『ピアノ・レッスン』の中で使用された、構築されながらも、物語に寄り添う落ち着いた美を讃える『悲しみを希う心』の旋律、またラフマニノフ作品からは第3楽章のクラリネットの哀愁に満ちた甘美な旋律が思い起こされるだろうが、このプログラムのバランス感覚は、世代的にも、音楽的にも興味深い。

 まずナイマン作品は、映画の主人公の出身地であることから、テーマの多くにスコットランドの古い民謡旋律が素材として使用され、さらにケルト音楽的リズムの躍動感が組み込まれているのが特徴的。そのスコットランドは、実は湯浅自身も30年以上過ごしてきた土地でもあり、ひときわ思い入れの強い作品とのこと。細部に渡り本格的な演奏が聴けることが期待されよう。そしてグラス作品は、湯浅指揮による録音が世界的な注目を得ていることも注目されたい。とりわけ『ヴァイオリン協奏曲第1番』の録音は動画配信サイトYouTubeで、数十万規模の閲覧数を記録している。今回演奏されるのは、 それに続く『ヴァイオリン協奏曲第2番』で、現代音楽の大家の作品としては、かなり新しい2009年作品。ヴィヴァルディ『四季』の現代アメリカ版を目指したもので、第1番でも見せたグラス独特の音作りの要素、さらにはシンセサイザーなどを用いながらも、弦楽合奏とソロの共演の妙が特徴的な『四季』のエッセンスが、 同じく弦楽合奏とソロの共演の中で、全体に巧みに散りばめられている。そこには現代アメリカ音楽の パンチの効いたスパイスが、強さがある。

 さらに、ここまで読まれた読者も気づかれたかもしれないが、ミニマル音楽の大家2人のオーケストラ作品が同じ会場で並べて演奏されることは、実は少ない。ミニマル音楽はその平明さやわかりやすさが、短絡的に単純かと思われることもあるが、花開くことができたのはそれぞれの作曲家に一筋縄ではいかない個性があったからこそ。そこには確固たる作曲技術や、生命力溢れるリズム感覚の追求がある。今公演では、オーケストラ作品を並べて聴くことによって、いずれも高度にアカデミックな教育を受けた2人の作曲家の、細部にわたる編曲技術や作風の違いが、会場で明確に聴き分けられるチャンスに違いない。

 最後に披露される、ラフマニノフ『交響曲第2番』は、貴族の家系に生まれながらアメリカに亡命するなど、ロシアの壮大な歴史とともにドラマチックに生きた作曲家によるもので、湯浅自身が「数あるロマン派の交響曲の中でも最もロマンチックな曲の一つと言っても過言ではない」と語る作品だ。実際にピアニストとして世界的な活躍をしたラフマニノフならではの音型の作り方が随所に見られ、指が動き回るような軽妙なフレーズがふんだんに現れるかと思えば、旋律の美しさが、聴衆の息を飲む。そして旋律は、息の長いフレーズとなって奏でられていき、そこにワーグナー作品で見られるような変幻自在の和声感が出現すると、迷い込むような不思議な世界を作り出す。その一方で、バレエの国ならではのダンス的な躍動感にも溢れており、いかなるバランスで采配するか、大きな聴きどころになる。

 ソリストとして舞台の中心を飾るのは、ピアニスト、アンナ・フェドロヴァとヴァイオリニスト南紫音、若く実力のある女性奏者2人だ。確かなテクニックの上に優れた音色を造り出すことができるフェドロヴァは、マルタ・アルゲリッチにも絶賛を受け、20代ながらその実力がヨーロッパ中で広く認められているピアニスト。ナイマンの『ピアノ協奏曲』でピアノ・ソロを務め、作品の要求する物語性をいかに聴かせてくれるだろうか。南紫音もまた、ロン=ティボー国際音楽コンクールとハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールにおいて第2位を受賞するなどの実力者。グラスの『ヴァイオリン協奏曲第2番』では、絶え間なくエネルギッシュな演奏を要求される。各楽章の冒頭にカデンツァがあり、休む間がない確固たる技術力が求められる。難曲を存分に弾き切る姿を見届けたい。

 湯浅卓雄と神奈川フィルに2人の若手実力奏者が放つミニマル音楽の名作2作品の持つ躍動感の堪能の後には、ラフマニノフ『交響曲第2番』の第3楽章の、有名なクラリネットのソロのどこか奥ゆかしい旋律が、やがてオーケストラに溶け合っていく、至福の瞬間が訪れる。近現代クラシック音楽の持つ、壮大さ、美しさ、躍動感が、新鮮さをもって会場を包み込む。そんな音楽の悦楽に、いま、あなたは出会うことになる――。

 


湯浅 卓雄
Takuo Yuasa (Conductor)

現代作品を含む幅広いレパートリーで国際的な活躍を続ける湯浅卓雄は、大阪に生まれ、アメリカ、オーストリアで研鑽を積んだ。これまでに群馬交響楽団指揮者、BBCスコットランド交響楽団首席客演指揮者、英国・アルスター管弦楽団首席客演指揮者を歴任。世界有数の流通量を誇る『ナクソス』と専属契約を結び次々とCDを発表している。

 


billboard classics ナイマン、グラス&ラフマニノフ premium symphonic concert

○3/2(土)13:30開場/14:30開演 (17:00終演予定)
【会場】Bunkamuraオーチャードホール
【出演】湯浅卓雄(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、アンナ・フェドロヴァ(p)、南紫音(vn)
【演目】マイケル・ナイマン:ピアノ協奏曲(『ピアノ・レッスン』より)/フィリップ・グラス:ヴァイオリン協奏曲第2番「アメリカの四季」/セルゲイ・ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 op.27
billboard-cc.com/classics/nyman-glass-rachmaninov/

   
左から、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、アンナ・フェドロヴァ(©Bernardo Arcos Mijailidis)、南紫音( ©Shuichi Tsunoda)
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