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抽象度、揺らぎ、遠さ、余白が、リスナーのなかで煙や光のようにざわめく

『WHALE LIVING』は、ラストの“Songbirds”以外が日本語詞になるという飛躍があった。しかし、Homecomingsのコアである〈近さ〉と〈遠さ〉のマージ(併合)に変化があったかといえば、そういうこともない。日本語詞ゆえに以前よりも言葉が耳に飛び込んでくるが、しかしそれでも、彼らの言葉・声・音は十分に抽象的で、十分に〈遠い〉ままである。“Smoke”に象徴されるような、具体性を極力排して、そこで描かれた世界観が、ただぼそりと自分自身だけに向けられているかのように、誰かに届くことを想定しないように、世界観のその端が、まさに〈煙の中に迷い込んでしまう〉ように、歌われる。“So Far”が歌う徹底的に自分しかいない世界は、眠りに落ちるときのような熱量の余波のなかに、外部の世界の存在を蜃気楼のように想像させる。ボンヤリと、内と外とが溶け合いながら、しかしハッキリと分かれてもいる。やはり〈近さ〉と〈遠さ〉の揺らぎあい、混じりあい。

リスナーは、Homecomingsの煙のような抽象性の音楽にくるまれたとき、自分自身の孤独や自閉についても思わず考えてしまう。その白昼夢のような余白ゆえに。『WHALE LIVING』が日本語詞を用いたことで明らかになったのは、Homecomingsの音楽が〈リスナーのなかで変化する〉音だということなのかもしれない。抽象度、揺らぎ、遠さ、余白が、リスナーに対し、自分自身のなかに煙や光のようにざわめいているなにかについて、自然と思いを馳せさせる。Homecomingsの音自体もまた抽象的で、それゆえに変容するかのようである。

音が聴覚以外の感覚を付随させる〈共感覚〉的なものともいえるかもしれない。どこか遠くの、存在はしているけれども理解しきれはしない、それでもなにか親しみを感じてしまうような存在(としての世界)を想起させるような音。僕がHomecomingsのなかでとりわけ好きな曲に、セカンド・アルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』に収録された“LIGHTS”という曲がある。曲のタイトルにもなっている〈光〉のイメージが、とりわけHomecomingsの音像には強く感じられる。それも、煙やモヤ、もしくは涙目や眠りに落ちるボンヤリとした気分のなかで微妙に揺れ動くような、霧のなかの光源のようなイメージ。その光は、ときにははっきりとしたかたちを帯びたり、もしくは消えてほとんど輪郭がわからなくなったりする。でも、しっかりと捉えきれずとも、それが常に存在していて、しっかりと掴みきれずとも、それを通じて、何か愛らしさを感じてしまうもの。

過去のことを思い出させたり見知ったものの姿をしたり、かと思えば知っているようで知らないものになったり。ヨ・ラ・テンゴのインストの名曲に“I Heard You Looking”という曲があるが、柔らかで温かいギターのメロディーと、それが破壊されるカオスの繰り返しが、なんというか宇宙自体の創成感を感じさせてしまう。そういう不定形・揺れの美学のようなものが、遠くて近いHomecomingsの音にはある。

 

決して一体化するわけではなく、距離を感じさせつつ共存し、その存在を認めあう

昨年末の〈LETTER FROM WHALE LIVING〉ツアーのファイナル、東京・渋谷CLUB QUATTROでの2時間を超えるワンマン・ライヴは、Homecomingsの愛らしい掴みがたさが存分に発揮されていたように思う。とりわけ畳野彩加がエレキ・ギターのみならずアコースティック・ギターやピアノを演奏することによって、このバンドがポテンシャルとして持つ幅と深み、スケールがこれまで以上に具現化されているように思えて、興奮を覚えさせるものだった。一方で、どんな音を鳴らしたとしても、この4人だからこその音なのだ、という風格さえも感じることができた。もしくは、この4人で鳴らす音としての必然性。アンコールでは“So Far”を畳野がひとりで弾き語ったが、このパフォーマンスでさえ、4人の音に聴こえる。

つまり、この“So Far”という曲が弾き語られること自体が、Homecomingsというバンドの歴史性を聴こえさせるのである。この音がここで鳴らされることに必然がある、という説得力のなかに。今回のワンマンで予期せぬ驚きだったのは、〈じっくり聴かせる〉ような新作の新曲群はもちろんのこと、その正反対にあるような〈若いバンド・サウンド〉然としたファースト・アルバムの楽曲群が抜群に映えていたことである。でもそれもまた、4人で鳴らす音の必然性が全編に漲っている『WHALE LIVING』というアルバムが、彼らが過去鳴らしてきた音にも、新たな必然性を付与したからであるように思えた。

遠さや距離が自分ではないものの確かさやその存在の必然性を感じさせること。それがHomecomingsの音である。揺らぎや抽象性があるからこそ、いろいろなものが確かに存在する/したことをざわめきのなかに聴かせる場所になる。過去の自分たちや、目の前の観客や、自分たちに糧を与える過去の/同世代の楽曲や音楽家たちが、その音に反響しあうように感じられる。決して一体化するわけではなく、距離を感じさせつつも共存し、その存在を認めあうかのようだ。

 

煙のように遠くて近くにある音

〈近さ〉は自分の話でしかないが、〈遠さ〉は自分と何かのあいだの話である。2つのもののあいだの距離……「リズと青い鳥」の主題歌“Songbirds”は、〈2本の線〉が近づいたり離れたりすることを語る曲だった。その距離を違える〈2本の線〉は、「リズと青い鳥」の主人公である2人の女子高校生、みぞれと希美の関係のことでもある。眼の前にいるけれどもとても遠くにいるようにも感じる、そこにいるけれども逸れていく2人のあいだの距離について〈だけ〉の映画。“Songbirds”はその2人の物語を感じつつ書かれていて、さらには「リズと青い鳥」とこの曲自体が2人の関係性とパラレルのようになる。

2つのもののあいだの距離・関係性――それは、届かなかったり出されなかったりする手紙について語る『WHALE LIVING』のテーマでもあるし、福富優樹とサヌキナオヤのタッグで月刊コミックビームにて連載が始まった漫画「CONFUSED!」の第一話が語るものである。さらにいえば、新千歳にてHomecomingsと〈共演〉した「犬ヶ島」が犬と人間の関係性で描いたものであり、映画と音楽を隣り合わせる〈New Neighbors〉自体のコンセプトに埋まっているものでもある。

つまり、〈隣人〉たちの存在を、自分とは異質だがそれでも共存しあう似たものとして、存在の確かなものとして、信頼すべきものとして、愛すべきものとして、遠いけれども確かなものとして、感じていくこと。Homecomingsの近さと遠さ。それは、近いようで、しかし完全に一致してしまうわけでもなく、でもおそらく似たような魂を持っているものたちの姿を、つまりわたしたちの現実を、語っている。Homecomingsの不定形で揺らめく音は、それらのあいだの距離を感じさせ、逆にだからこそ、それらのものたちを複数、音のなかにざわめかせつづける。その煙のように遠くて近くにある音のなかに。

 


Information
〈COLORING BOOK Vol.1 ~WHALE LIVINGの世界~〉
2019年3月1日(金)~3日(日)東京・恵比寿KATA (LIQUIDROOM 2F)
展示:13:00~21:00
※最終日3日は19:00からイヴェント開催のため、16:30までとなります。

LIVE & TALK SHOW
2019年3月3日(日)
開場/開演:19:00/19:30
前売:2,500円/学割:2,000円(ご入場時に学生証をご提示ください)
出演:Homecomings ※ライブはアコースティック編成となります
※立ち見でのご案内になります。椅子席の受付は終了しましたのでご了承ください
※受付はメール予約のみ
ticket@secondroyal.comまで公演日・公演名・お名前・枚数を明記ください
・携帯メールでのPC拒否を設定されている場合メールが届かない場合があります。必ずPCメール拒否解除をお願いします

〈Homecomings『SLOW SUMMITS』〉
2019年4月20日(土)東京キネマ倶楽部
料金:前売り 3,500円(別途1ドリンク要)一般発売日:3月2日(土)
出演:Homecomings × Homecomings Chamber Set
開場/開演:17:30/18:30
ぴあ(P:143-281)、ローソン(L::72668)、イープラス、LINEチケット
※学生割引:ご入場時500円キャッシュバック(要学生証)
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 www.red-hot.ne.jp

〈Homecomings『SLOW SUMMITS』〉
2019年4月26日(金)大阪・梅田TRAD
料金:前売り 3,500円(別途1ドリンク要)一般発売日:3月2日(土)
出演:Homecomings × Homecomings Chamber Set
開場/開演:18:30/19:30
ぴあ(P:143-264)、ローソン(L:53500)、イープラス、LINEチケット
※学生割引:ご入場時500円キャッシュバック(要学生証)
問い合わせ:SMASH WEST 06-6535-5569 smash-jpn.com

〈Homecomings&ナイト・フラワーズ UK TOUR APRIL 2019〉
2019年4月2日(火)イギリス・ロンドンThe Victoria
2019年4月3日(水)イギリス・バーミンガム The Sunflower Lounge
2019年4月4日(木)イギリス・シェフィールド Delicious Clam
2019年4月5日(金)ウェールズ・カーディフ The Moon
2019年4月6日(土)イギリス・ハル The Polar Bear
UKツアー・チケット情報 http://bit.ly/NightFlowersHomecomings