「今作は『サイケデリックシネマ』という、僕らThe Taupeが作り出した映画館。そこで上映されている架空の10作品のテーマ曲を考えたアルバムです」──そう語るのは、ソングライターのかわもトゆうき。歌詞カードには各上映作品=曲のあらすじが掲載されているが、未知の生命体が地球に襲来して人々を踊らせる“ピグロンX”などどこかB級感のあるSFや、ホラー、ドキュメンタリーにアクション、コメディーと多種多様。従ってサウンドも多彩だ。

The Taupe サイケデリックシネマ コドモメンタルINC.(2019)

 「デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を観たときに、何だこれ!?って衝撃を受けたんです。全然意味がわからん!っていう。ただ何度観てもめっちゃおもしろいし、観応えがあるし、観るたびに〈こういうことを考えていたんだ〉って思える作品で。その感覚がバンドの音楽に反映されていると思います」(かわもト)。

 「いままでは出来た曲をまとめてCDにするという作業だったんですけど。今回はあらかじめ映画館というテーマがあったからこそ、バラバラの色の曲があってもいいという意識もありました」(ニール・パティパティパティ)。

 デヴィッド・リンチ作品が好きだというかわもトの作る曲は、タイトルにある〈サイケデリック〉という言葉通り、ひと筋縄でいかないヒネリや妙味が利いている。

 「それぞれの話の内容も加味しながら、これはポップ寄りな曲にしようとか、疾走感のある曲にしようとか意識してアレンジをしていますね。他の3人の音が個性的なぶん、ドラムはシンプルですが、ここぞというところでフィルを入れたりして、飽きのこない曲にしようと思っていました」(しょーへい先生)。

 「普段のライヴではエフェクターを使うんですけど、これまでレコーディングでは使ったことがなくて。でもテーマが映画だし、一辺倒になったらおもしろくないから、初めてレコーディングでいろんなエフェクターを使ったんですけど、果たしてこれでイメージ壊してないかな?とか、個人的に大変でしたね」(おのてらえみ)。

 ニューウェイヴ、ポスト・パンクの匂いを感じさせる鋭角的なサウンドに、低音で低温なかわもトとポップでキュートなおのてらという対極的な男女ヴォーカルが特徴的なThe Taupeの音楽。70~80年代のポスト・パンク・バンドを引き合いに語られることも多いそうだが、実はルーツはJ-Popやギター・ロック、オルタナやファンクなどバラバラだ。そこに映画やゲーム、コミックなどのカルチャーが入り乱れ、歪にしてクールで、しかしチャーミングな音が生まれている。〈妖怪〉を自称するのも納得の、何をしでかすかわからないおもしろさや、不思議な親しみも感じられるだろう。

 「性格的には直球なんですけど、作るものが変化球なものが多いんです。絵とかもそうなんですけど(かわもトはアートワークも担当)、ストレートじゃなくて、ちょっと曲がっていたりはみ出していたりする感じがあるんですよね。昔から人と同じものがあまり好きじゃない子どもで、冒険したいっていうか。ちょっとヘンな性格なのかもしれないです(笑)」(かわもト)。

 「だからこそアレンジするのも楽しいです。ゆうくん(かわもト)のことをだんだん理解もしてきて、歩み寄って、こういうアルバムを作れるくらいまでになりましたしね(笑)」(しょーへい先生)。

 「自分たちで言うのもなんですけど、唯一無二だと思う」とかわもトはThe Taupeを評する。彼らの生み出す音楽、シネマの世界にどっぷりと入り込んで、シュールな時間を体験してみてほしい。

 「歌詞に関しては中毒性を狙っていたり、曲についても一応は計算してますけど、聴く人によって全然捉え方は違うと思うんです。正解はないので、聴いた人の感じたことが正解でいいのかなって」(かわもト)。

 


The Taupe
かわもトゆうき(ヴォーカル/ギター)、おのてらえみ(ベース/ヴォーカル)、ニール・パティパティパティ(ギター)、しょーへい先生(ドラムス)から成る、4人組のオルタナティヴ集団。バンドではなく〈妖怪〉を自称して2014年1月に結成される。2015年に初のミニ・アルバム『バンドではありません』をリリース。2016年にはEP『ダークではありません』を発表し、〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉にも出演。2017年にはファースト・アルバム『セレンテラジン』を全国流通。海外公演など活動の幅を広げ、2018年のミニ・アルバム『NEO TOKYO 帝国』が話題を集める。このたびセカンド・アルバム『サイケデリックシネマ』(コドモメンタルINC.)をリリースしたばかり。