イアンの濃密なソロ・キャリアを再訪しよう

 初のソロ作を『Unfinished Monkey Business』(未決着の悪ふざけ)と命名していただけに、96年のストーン・ローゼズ終焉を経て、イアン・ブラウンが単独行動を始めるまでにさほど時間はかからなかった。98年にリリースされ、全英チャート最高4位を記録したそのアルバムでは、ジョン・スクワイア以外のローゼズのメンバー全員が参加。スペイシーなグルーヴに根差したバンドの延長上にある音楽性で、まずは順調に独り立ちを果たす。翌年には緻密に作り込んだエレクトロニックかつサイケデリックなソロ2作目『Golden Greats』を送り出し、3作目『Music Of The Spheres』(2001年)では若手プロデューサーのデイヴ・マクラケンと組んで、エレクトロニック路線をよりミニマルかつアトモスフェリックな方向へと推し進めることに。

 かと思えば、4作目『Solarized』(2004年)で中南米や中近東の音楽、映画音楽などにインスピレーションを求め、エキゾティックな表現を模索したイアンは、5作目『The World Is Yours』(2007年)をヒップホップ畑の米国人プロデューサー、エミール・ヘイニーと制作。荘厳な弦楽器とブレイクビーツのダビーなミクスチャーを志向し、続く6作目『My Way』(2009年)はマイケル・ジャクソンの『Thriller』をお手本に掲げて、ピアノやシンセを多用しながらかつてなくポップで多彩な作品に仕上げたものだ。

 こうして10年間に6枚というなかなかのハイペースでアルバムを発表し、ポスト・ブリット・ポップ時代のUKロックとは一定の距離を保ったまま、レイドバックした歌とシネマティックなサウンドスケープのコンビネーションを、作品ごとに異なるアングルや色彩で提示してきたイアン。『Ripples』の登場は、彼の濃密なソロ・キャリアを再訪する絶好のチャンスなのかもしれない。 *新谷洋子

 

イアン・ブラウンのソロ作品を紹介。