INTERVIEW

ポール・ルイス『ハイドン:ピアノ・ソナタ集』 生きることは変わっていくこと。

©igor.cat Harmonia Mundi

 

生きることは変わっていくこと。

 くっきりとみえてくるのはハイドンの大きさだ。イギリスのピアニスト、ポール・ルイスが長年の愛着を込めて集中するハイドン探求。いっぽうには近年、内面の成熟とともに共感を強めるブラームスがある。この両者をベートーヴェンで架橋した4回のリサイタル“HBBプロジェクト”を、2017年秋からじっくりと各地で展開。王子ホールでは今年秋にディアベッリ変奏曲を含む最終回が待たれる。ハイドンのソナタは7曲を採るが、これに先立ちハ長調Hob.XVI:50、ト長調同40、変ホ長調同49、ロ短調同32を録音している。

PAUL LEWIS ハイドン: ピアノ・ソナタ集 Harmonia Mundi/King International(2018)

 「ロ短調ソナタは初期の作品だけれど、感情の質をみても、そうは聴こえないでしょう? ハ短調ソナタも後期作のように響くし、気質はブラームスのように暗い。ハイドンというと一種の軽みが期待されるし、それも彼の性格だけれど、驚くほどの深みもある」とポール・ルイスは言う。まずはユーモアや軽妙さで愉しませた彼のハイドン解釈も、プロジェクトが進むにつれ、曲の柄や情感がますます大きく表現されてきた。「ロ短調ソナタはモダン・ピアノでぴったり充分な表現ができる。しかも、ハープシコード曲のもつバロックの様式も、ほとんどロマン主義的な、深く劇的なものまでも聴こえてくる。それをひとつのスタイルにまとめあげているのがハイドンの天才的なところだ」。

 レコーディングが先行したが、演奏会を重ねることで解釈も自ずと変化してくる。「変ホ長調ソナタの冒頭楽章にしても、録音ではより速いけれど、いまはもっとスケールの大きな作品として弾くようになった。でも5年経ったら、速く弾くかも知れない。そうでなければ、生きることをやめるべきだと思うよ(笑)。私たちは変わらなくてはいけないし、成長していかなければ。そのためには他のタイプの音楽からなにかを得ることが重要でしょう」。

PAUL LEWIS ウェーバー: ピアノ・ソナタ第2番変イ長調Op.39、シューベルト: ピアノ・ソナタ第9番ロ長調D.575集 Harmonia Mundi(2019)

 プロジェクト後半に組む3つのソナタが今年1月に録音されて第2集となるが、リリースは少し待たされそうだ。「次作はウェーバーの変イ長調とシューベルトのロ長調という、ほぼ同年代のソナタの組み合わせ。併せて聴くと、後者はとても古典的に聴こえるし、前者はピアニズムも含めてショパンのように響く。2020年はベートーヴェン記念年で『バガテル集』が出るから、ハイドンはその後。もちろん第3集もつくりたい。ハイドンはずっと弾いてきたし、こどもの頃から図書館でレコードを借りて大好きだった。すごい偶然だけれど、1970年代にソナタ全曲録音を出したジョン・マッケイブとはまったくの同郷。リヴァプールというだけではなくて、郊外のハイトンという小さな町。ハイドンとほとんど同じ発音なんだよ(笑)」。

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