沖縄民謡界を代表する2人による唯一のライヴ音源

 「レコーディング前の期待としては、師匠はガッチリ受け止めてくれるだろうと。でも“お前なに力んどんねん”と軽くいなされた。俺だけがフワンフワンとしていてガップリ四つにならない。火花が散らない。一方、師匠の歌は以前よりすごく艶っぽくなっているし、歳も10歳しか違わんのに作られている世界観がこんなに違うのかと考えさせられましたね」

 長々と引用してしまったのは、2004年に発表されたジョイント・アルバム『登川誠仁&知名定男』の際のインタヴューで知名定男が登川誠仁について語ったもの。長年大きな存在であり続けた師匠のいぶし銀の至芸に触れて、自分はまだまだ及ばないと実感。けれども、レコーディングで真摯に音楽と向き合う姿を見せることもできたし、一人前として認めてもらえたかもしれない……そんなことをひそかに考えていたという知名だが、たぶんこのステージ上でも師匠の背中を眺めながら似たようなことを考えていたのでは、なんて想像してしまう。

登川誠仁,知名定男 ライブ! ~ゆんたくと唄遊び~ RESPECT RECORD(2019)

 このステージ、とは、今回リリースされた登川誠仁&知名定男 『ライブ!~ゆんたくと唄遊び~』のこと。前述したアルバムから遡ること3年前、2001年9月5日に表参道CAYで開かれたふたりの唄会〈ゆんたくと唄遊び~夢の共演! ふたりのビッグショー~〉の模様をフルで収めたライヴ盤で、これまで未発表だったものである。両者の貴重な共演がいくつか収められているが、例えばふたりの息がピタリと合った《花風》。どこまでも悠然としたセイ小を追うように知名が苦み走った声を響かせているのだが、沖縄民謡界の大御所が師匠を前にして、ただの弟子に戻ってしまっているところがしっかり記録されている。目を閉じて耳を凝らせば、小さな6畳間で12歳の知名と25歳のセイ小が向かい合って稽古を行う風景まで見えてくるようだ。そんな格別な名演と特別なヴァイブが満載の2時間。セイ小が8分近くかけて22曲を一気に歌い上げる《民謡節渡り》といった圧巻のパフォーマンスにも出会える。

※セイ小=登川誠仁の愛称