COLUMN

謎多きシェイド、日本デビュー作『Melt』に聴く4つのポイント

MacBook AirのCM曲“Trampoline”がヒットしたトリオに迫る


Photo by Shervin Lainez
 

昨年、Apple MacBook AirのCMに使用されたある曲が話題を呼んだ。曲名は“Trampoline”。アーティスト名は〈SHAED〉。謎めいたユニットのその曲は、Apple製品のスタイリッシュなイメージと見事に合致したもので、ググる人が続出。結果、ストリーミングで爆発的なヒットを記録した(2019年3月現在のSpotifyの再生回数は5,000万回超!)。

そんな彼女たちから日本デビュー作となる『Melt』が届けられた。バンドみずから編集した特別盤は、謎多きシェイドの全体像を提示するもの。同作を取っ掛かりとして、その歩みと豊穣な音楽性にライターの新谷洋子が4つのポイントから迫った。 *Mikiki編集部

SHAED Melt Photo Finish/HOSTESS(2019)

 

1.  シェイド結成のいきさつ

SHARED? それともSHADE? 最初はスペリング・ミスなのかと思って何度も見直してしまったが、〈SHAED〉で間違っていなかった。〈シェイド〉と読むのだという。かつ、ちゃんと由来があった。米国ワシントンD.C.出身のこのバンドのメンバー――共にマルチ・インストゥルメンタリストであるマックス&スペンサー・エルンストと、シンガーのチェルシー・リー――が愛する、パトリック・ロスファス著のファンタジー小説「風の名前(The Name Of The Wind)」に登場する、影で形作られた魔法のマントの名前なんだそうだ。

そのメンバーの出会いは10年以上前、高校生だったときに遡る。双子のマックス&スペンサーは子どもの頃から音楽作りに勤しみ、一緒にバンド活動を行っていたが、地元の伝説的ライヴハウス〈9:30クラブ〉でライヴを行なった際、たまたま観に来ていたのがチェルシーだった。意気投合した3人は以来固い友情を育み、独自にシンガー・ソングライターを志していたチェルシーも、一旦大手レーベルと契約するに至ったとか。しかし活動に行き詰まって、マックスとスペンサーの新バンド=ウォーキング・スティックスに参加し、最終的にシェイドと名前を変えて、2016年春に再出発を切ったというわけだ。

 

2. MacBook AirのCMソング“Trampoline”の大ヒット

それからの彼らは早速デビュー・シングル“Just Wanna See”をお披露目し、9月にNYのインディー・レーベル、フォト・フィニッシュから同名のファーストEPを発表。ツアーも精力的に行ないつつ、2017年には“Too Much”と“Lonesome”の2曲のシングルを送り出し、着々と知名度を上げてきた。

そして2018年9月にセカンドEP『Melt』をリリース。そこに収められていた曲のひとつが、“Trampoline”だ。口笛を印象的に用いたこのミニマリスト・ポップは、Apple MacBook AirのCMソングに選ばれて多くの人々の耳を捉え、かつてのティン・ティンズやチェアリフトと同様、一躍大きな注目を浴びることになる。

『Melt』収録曲“Trampoline”
 

これを受けて、日本独自企画のアルバム『Melt』がお目見え。7曲入りのEP『Melt』の全収録曲に他の既発曲を交えた計13曲を、メンバーが特別にセレクト・構成してくれたのだという。従って企画盤でありながらも、EP『Melt』を締め括る“Inside A Dream”でドリーミーなフィナーレを迎えるまで、一枚のアルバムとしてのフロウを備える完成度の高い作品となった。

 

3. エレクトロ・ポップ、R&B、トリップホップ……シェイドの豊かな音楽性

ちなみに、ワシントンD.C.発の音楽としてもっとも広く世に知られているのはハードコア・パンクだが、シェイドの場合は、その陰に隠れがちな他のシーンのレガシーを受け継いでいるようだ。つまり、ソウル、ファンク、R&B、或いはダンス・ミュージックの豊かな歴史を。

というのも彼らの曲はざっくりと〈エレクトロ・ポップ〉と総括されているものの、本作を聴けば、そう単純な話ではないことがわかる。数々の生楽器の演奏からプログラミングやプロダクションまですべてをこなすエルンスト兄弟は、クラフツマンシップを駆使して洗練されたサウンドスケープを構築。“Trampoline”にはトリップホップ的な陰影を添え、新進シンガー・ソングライターのsnnyをフィーチャーした“You Got Me Like”や“Just Wanna See”ではコンテンポラリーなR&Bに限りなく接近し、ナマのストリングスを盛った“Lonesome”はシーアが歌ったとしても不思議ではない壮大なバラードに仕立てた。さらに、ダンサブルな“Too Much”ではEDMを独自に消化し、“Silver Knife”や“Name On It”は、80年代のファンク・ポップやディスコにインスパイアされたと見られる。

『Melt』収録曲“Just Wanna See”

 

4. ポテンシャルしか感じない3人の3つの声

そんなふうにスタイルがさりげなくシフトしていくなかで、全編を束ねて揺るがぬパーソナリティーとアイデンティティーを与えているのが、チェルシーのパワフルなヴォーカル。その魅力を最大限に引き出すことが、マックス&スペンサーにとって最優先の関心事らしい。何しろ、ウォーキング・スティックスはもともとフォーク志向のインディー・ロック・バンドだったにも関わらず、ソウルフルで華のある彼女の声にはそぐわないと判断し、潔くエレクトロニック路線に切り替えたというほど。また、表題曲のブレイクで鳴っているケルティックなストリングスが好例で、シェイドの曲には随所に一筋縄ではいかないおもしろい音が織り込まれているのだが、チェルシーが歌うことで究極的には、いたってメインストリームなアピールが付加されている。

とはいえ、2人のフォーク・ルーツが完全に払拭されたわけでは決してない。どの曲も、アコギの弾き語りでも成立するトラディショナルな形をとっており、殊にライヴ映像を観ると、マックス&スペンサーはチェルシーの声を両側から包み込むようにして、家族ならではのナチュラルで繊細なハーモニーを響かせている。3つの声のユニークなコントラストにも、ポテンシャルを感じずにはいられない。

シェイドのスタジオ・ライヴ映像。『Melt』収録曲“Silver Knife”をアコースティック・アレンジで演奏している
 

また家族と言えば、チェルシーとスペンサーは長年の交際を経て結婚し、現在はマックス共々一軒家で暮らしながら、日々音楽作りに勤しんでいるそうだ。浮世離れした名前をまとう彼らが生む、シャイニーでマジカルなポップソングが、長い年月が培った人間同士の絆と地に足の付いた生活に根差しているのだと思うと、余計に輝きを増すような気がする。

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